BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――笑顔のトライアル

f:id:boatrace-g-report:20171212153952j:plain

 10Rが終わり、11Rのスタート展示が始まると、ピットの人たちの目は一気に決定戦組に注がれる。やがてピットには静寂が訪れ、誰もがトライアルの開戦を今か今かと待っている。

 そうした空気を切り裂くように、水面にはエンジン音が響いていた。シリーズ組が、試運転を続けていたのだ。今日、1着を獲って明日の勝負駆けにつないだ魚谷香織もその一人。2R1回乗りだったわけだから、ずいぶん長いこと、試運転と調整を繰り返していたことになる。表情はかなりスッキリしているように思えるが、白星を手にした安堵もあっただろうか。もちろん、これで満足しているとは思えない。だから、作業をやめないのだ。明日、さらなる上積みを示すことになるのだろうか。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154010j:plain

 同期の犬童千秋も、魚谷と足合わせなどもしながら、この時間にも水面を走っていた。犬童は、着をまとめてはいるものの、まだ1着は出ていない。大きい着順もあったから、明日は決して楽ではない勝負駆けとなる。その準備を、着々と進める3日目の午後、だった。表情に暗さはなく、ピットでは魚谷と笑顔を交わし合ってもいる。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154024j:plain

 栢場優子、平田さやかの東京支部コンビも、この時間帯までともに走っていた。試運転を終えると、栢場が真剣な表情で平田に語りかける。平田も真摯にうなずき、時に言葉を返す。少しだけ聞こえてきたのは、足合わせの感触確認というよりはむしろアドバイス。先輩から後輩への指導的な言葉が漏れ聞こえてきていた。この二人、明日は2Rの1号艇と2号艇なんですよね。平田は先輩のアドバイスに逃げ切りで恩返ししたい。もちろん栢場は後輩をねじ伏せたい。遅くまでの足合わせとアドバイスは、この対決のレベルをひとつ上げ、コク深いものにしてくれるだろう。

 試運転はこの11R発売中ですべて切り上げられ、ピットはふたたび静寂に包まれる。そうこうしているうちにシリーズ組の選手の何人かが整備室のほうに向かっていた。彼女たちはどうやら、整備室のモニターでトライアルを観戦するようだ。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154044j:plain

 さあ、トライアルだ。11Rは金田幸子が逃げ切ったわけだが、スリット前では妙なことが起きている。三浦永理が明らかに遅れているように見えたのだが、じわじわと追いついていき、ほぼ追いついたところでスリットを通過している。

 ピットに戻ってきた金田、三浦、長嶋万記の周辺は騒然となっていた。というか、みんな笑っていた。「1秒間違えたやろ~」と田口節子が大笑いしながら金田にツッコミ。そう、金田が起こしのタイミングを1秒も間違えていたのだ。それを見た長嶋はパニクったそうで、金田につられている。実は三浦は自分のタイミングで起こしたわけで、しかし金田と長嶋が前にいるから、焦りもあったようだった。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154103j:plain

 そんなこんなを大笑いしながら語り合う。金田には田口ら岡山勢が満面の笑みで取り囲み、三浦と長嶋には倉田郁美と池田浩美が歩み寄って、時にジェスチャー付きで笑い合うのだった。

 これが案外、彼女たちの背中を押すかも、と思った。トライアルは1着、2着が会見を行なうが、二人が口をそろえていたことがある。

「緊張していました。明らかに硬くなっているのがわかりましたね」(長嶋)

「今節は緊張していると思うので、落ち着いていきたいです」(金田)

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154116j:plain

 そう、金田も長嶋も、初めての賞金女王に緊張感を覚えていたのだ。起こしミスも、おそらくはそれが遠因となっているだろう。さすがの金ちゃんもマキちゃんも、この舞台に重圧を感じていたというわけなのである。

 それだけに、トライアル初戦で失敗をし、それを笑い合えるというのは、彼女たちの気持ちをほぐすことになるのではないか。しかも、結果が良かったのだからなおさら。明日からは余裕をもってレースできるんじゃないかな。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154129j:plain

 12Rは百戦錬磨の強者が揃った一戦。メンバー中4人が昨年の決定戦を経験しているし、それほど緊張感は強くなかっただろうか。

 10R後、寺田千恵がこちらに向かって、両手を水平に広げて見せた。??? キョトンとしていると、「セーフ! 間に合った!」。前検では泣きが入っていたテラッチ、今日一日の調整で「なんとか形になるまでにはなった」という。戦える足、ということだ。さすがテラッチ、と冷やかしたりしたわけだが、その表情はなんとも余裕綽々に見えた者であった。

 ただ、もちろんレース後はそうはいかない。寺田は攻めながらも日高逸子ともつれていて、ピットに上がってくるとさすがに悄然としていた。日高に声をかけられたときも、笑って応えることはできなかった様子。初戦の大敗は、やはり痛い。

 それでも、切り替えが早いのもベテランらしさ。寺田が山川美由紀に「すみませーん」と声をかけると、自然に谷川里江、高橋淳美がそこに集結。なんだかんだで表情は柔くなって、4人は肩を並べて控室と戻っていったのだった。ナントカ4姉妹と名付けようかとも思ったが、残念ながら思いつきません(笑)。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154144j:plain

 もし、12R組で大きなプレッシャーと戦っていたとするなら、やはり平山智加だろう。ベテラン組にただ一人組み込まれ、しかも1号艇。選考1位で参戦していることの重圧もあって然るべきだ。それでも、見事にイン逃げ快勝! 危なげない勝ちっぷりでしたね。レース後の平山は神妙な表情ではあったが、勝って兜の……という部分もあったのだと思う。

 先に書いてしまうと、平山は明日も1号艇をゲット!「ビックリしました」とのことだが、さすがにニッコリと笑っている。その後に行なわれた会見でも柔らかい表情になっていて、手応えの良さを語っていた。完全に流れを掴んだか!? 明日は前付けもある組み合わせなので、楽な1号艇とは限らないが、クリアしてしまえば相当に有利なポジションということになるだろう。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154159j:plain

 さて、トライアルのお楽しみといえば、枠番抽選。レースと枠順は別項をご参照いただきたいが、1号艇は平山と金田幸子。トライアル初戦二人の1号艇、そして勝者が、続けて白いカポックを手にしたわけである。金田もニンマリ、そして他の選手たちはただただどよめくことしかできなかった

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154209j:plain

 海野ゆかりと守屋美穂がなかなか球を出せずに何度もガラポン回したり、高橋が出した球が跳ねて飛び出してしまってあっちゃん大慌ての巻なんてことがあったりと、和やかな空気のなか進んでいったわけだが、もちろん外枠を引いてしまった選手たちは内心、別の感情もあったことだろう。テラッチは仏頂面にも見えたしね。日高逸子は緑の球を出した瞬間、「すみません」と口にしたし。明日は前付けに動くことになるけどすみません、ですか?(同レース5号艇・山川は早くも「自分も動く」宣言)

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212154226j:plain

 で、6号艇を引いてしまった谷川里江が、抽選がすべて終わり、いざ解散というタイミングで、「はい、やり直し!」と叫んだ。もちろんジョークですけどね。その間が絶妙だっただけに、大爆笑! もっとも半分は本音だったりして? すかさず「さんせーいっ!」と叫んでいたテラッチもかなり本気だったかも……。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=抽選 TEXT/黒須田)