まあ、こんなもんなんだろうな、と思う。
大きな感情の起伏がなかった賞金女王シリーズ戦の優勝戦後。もちろん勝ち負けに悲喜はつきもので、誰もが胸に何かを抱えただろうが、日々戦い慣れているオール女子戦、その優勝戦であることを思えば、チャンスはまた近いうちに来るのである。
2着の倉田郁美はサバサバとしか言いようがない雰囲気だった。
水口由紀は6コースに出てしまった後悔はあっただろうが、その悔しさが前面におしだされていたわけではなかった。
惜しいところで優勝を逃した大瀧明日香も、眺めた範囲ではクールにレース後を過ごしていた。
本当は、かなり思うところアリのはずの田口節子にしても、表情は冴えないものの、女子王座優勝戦で敗れた時ほどの感情は伝わってこない。まあ、もっともうつむき度が大きかったのは、たしかに田口ではあった。黙々と悔恨に耐える姿に、強者の色気があったのは間違いない。
ただ一人、例外をあげる。小野生奈だ。レース後は露骨に顔を歪めていて、竹井奈美らとレースを振り返りながら、目が悔しそうに細くなっていった。これは僕自身は確認できなかったのだが、どうやら涙を流していたようである。4カドが転がり込み、トップスタートを決めて激しく田口を攻め込んだレースぶりは、この優勝戦の殊勲賞である。全国的に注目が集まる舞台に初めて立ちながら、自分の持ち味を存分に発揮しようとした心意気は、田口に跳ね返されたという結果にかかわらず、拍手を贈るべきだろう。
そして、その結果、念願の初優勝に届かなかった事実に、思い切り悔恨をあらわす。この全力っぷりには、心から賛辞を送りたい。来期A1級に昇級するという事実もあるが、それを考慮に入れなくても、小野生奈は必ず女子のメインシーンに躍り出るだろう。今日のその涙にも拍手。その涙を忘れなければ、あのカドまくりはいつか田口を飲み込む。
優勝は山下友貴だ。田口と大瀧が2マークで競るようなかたちになり、その間隙を突いて逆転差しを決めた。評判機38号機の威力を引き出し、見事に「もっとも目立つオール女子戦」を制した。昨年は池田浩美が制しているから、2年連続で静岡勢の制覇だ。
その池田がバンザイしながら手を振って、山下を出迎えた。山下はヘルメットの奥でにこっ。その後も、祝福の言葉を浴びながらにこにこっ。ただ、それ以上の大きな歓喜表現は、見られなかった。また、笑顔というより、喜びをかみしめているような表情も多くみられ、最高の笑顔を見るのは表彰式から戻ってきた後まで待たなければならなかった。
そういえば、ピットに戻ると、すぐに他の選手たちに頭を下げに行っていたな。山下の中には敗者への気遣いがあっただろうか。だとすれば、そのひとつひとつの仕草がなんともプリティである。
これで山下は、来年の女子王座への優先出場権を手にしている。オール女子戦の優勝者に与えられるもので、シリーズ戦はまさにオール女子戦なのだ。ま、勝率できっと出られるレベルの選手ではあるが、これがひとつのステップボードになるのは間違いない。
とにもかくにもおめでとう。来年はさらに飛躍の年に!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)