パチパチパチパチ。先頭ゴールを果たしてピットに戻ってきた前本泰和に、拍手が贈られた。当たり前のシーンのように見えるが、わりと珍しい。ＳＧ覇者の凱旋を迎えるのは、バンザイや歓声であることが圧倒的に多く、それを見て覇者も高揚して笑顔を爆発させる、という構図のほうが当たり前だからだ。
しかし、前本には拍手が贈られた。二人だけの参戦である広島支部がそろって優勝戦に乗っているということもあっただろうが、僕にはそれが前本泰和という男に対する尊敬の念のように聞こえた。淡々と、着々と実力を蓄積した前本は、プロとして敬意を抱くべき人物だからである。
シリーズ戦だからというわけでは決してないと思うが、敗者たちは一様に淡々としていたと思う。カポックを脱ぎながら、誰もが笑っており（苦笑混じりではあった）、そこに渦巻く大きな悔恨は見当たらない。そりゃみんな悔しい思いを抱えているのは間違いないのだが、大きな波動として見る者に届くほどではないのだ。
山口剛も、大きな笑顔を見せていた。この人の場合、畏敬すべき先輩がＳＧ初タイトルを手にしたことへの祝福もあったか。徳増秀樹も、微笑を浮かべており、精一杯戦ったという感覚はあったのではないか。ピット離れで遅れ、スタートもやや後手を踏んだ中で準Ｖ（ＳＧ２連続！）まで押し上げたのは、勝利の次に充実感を与えるものだっただろう。茅原悠紀も、笑顔が目立った。初めてのＳＧ優勝戦を戦い、しかしさすがに６コースは遠い。そうしたなかで、この雰囲気を味わえたことは、今後に確実につながってくるだろう。
やや微妙な表情をしていたというなら、桐生順平。激しく顔を歪めて悔恨をあらわにするわけではないが、少しだけ顔が引きつっているように見えた。とはいっても、山口とレースを振り返る際には笑みを浮かべており、どちらかといえばやはり淡々としていた部類に入るだろう。
一人だけ様相が異なるのは江口晃生。転覆して救護室に運ばれており、敗者の輪に姿はなかったのだ。10数分後、治療を終えてピットにあらわれた江口は、笑っていた。ただし、それはバツの悪い笑顔。敗れたことよりも転覆してしまったことを恥じているような、そんな雰囲気だった。結果は残念だったが、名人のＳＧ優出はお見事！ 来年もまた、名人技と優しい笑顔で、我々を魅せてくれるであろう。
で、実は前本もまた、淡々、だったのだ。これが前本の個性なのだろう。笑顔はずっと消えなかったが、歓喜を表現するでもなく、歓声をあげるわけではなく、ひたすら淡々と勝利の喜びに浸っているようだった。レース前にはそれほど緊張もしなかったというから、終始淡々としていたわけだ。
それでも！ 水神祭では笑顔がはじけたぞ。ＳＧ初優勝だから、当然やります！ 広島支部は山口しかいないので、参加したのは大阪支部。王者もレーザービームも快速王子も、選手班長も参加した。班長は山口を落とすフリをして、ウケを取っておりました。あと、なぜかレーザービームは峰竜太まで落とそうとして、峰が「大阪の人、こわーい」とか言われてました（笑）。
おっと、主役は前本泰和。ほとんどがＳＧウイナーという豪華な面々にウルトラマンスタイルで担ぎ上げられ、冷たい冷たい水の中に投げ込まれると、前本は嬉しそうに笑顔を輝かせたのでありました。松井が「寒そう」と心配していたが、前本自身はそこは淡々。そういう意味では、最後まで前本らしさが貫かれていましたな。
前本選手、おめでとう！ 来年はＳＧでたくさん会いましょう！（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
