BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――イン屋魂!

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 貴重なものを見た、と思ったのだ。

 8R、鈴木幸夫が6コース! 6号艇からもちろんコースは獲りにいったが、誰も譲ろうとはせずに6コースとなった。スタート展示はオールスローの6コースで、本番はなんとダッシュ! 鈴木のダッシュ戦を見られるとは思わなかったから、正直、ちょっと浮かれた気分だった。

 しかし、鈴木にとっては屈辱の事態だった。当たり前だ。イン屋の看板を背負い、徹底的にコースを獲りに動いていた男が、それを果たせなかったのだ。鈴木にとっては、これが7年3カ月ぶりの6コース。そのことを本人に話しかけてみると、鈴木は露骨に不機嫌な表情を見せたのだった。気楽に声をかけたのを後悔させられるほど、鈴木は「まったく、情けないよ」を連発した。

 ただ、これが名人戦ではないか、という見方もできる。多くの選手が内寄り志向であり、いかに鈴木が相手といえどもおいそれとコースを明け渡すわけにはいかないと考える選手も多いだろう。まして、予選が3日間しかないわけだから、なお駆け引きは熾烈になる。この舞台だからこそ起こった珍事、と言えなくもないのだ。

 

 

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 しかし鈴木は「いや、もっとコースを獲るべく努力をしなきゃいけなかった。スタートもぜんぜんわからないんだし」とただただ悔やむ。これぞイン屋の魂なのだと、話しているうちに僕は鳥肌が立ってきた。いつも柔和な表情で、これまでに話を振ると優しく応えてくれた幸夫さん。しかし、目の前にいつのは100%イン屋の鈴木幸夫だ。彼の本質に触れられたのだと思った。

 それでも、話にちゃんと付き合ってくれるのが幸夫さんである。前回の6コースは、実は江戸川の6号艇。枠なり基本の江戸川だから、これはまあ例外中の例外だろう。「ああ、そうだっけ。もういつ6コースになったかなんて、忘れちゃってるからねえ」と少し穏やかな表情になった。ちなみにダッシュは、「なんとなく、たまにはやってみるか、と思っただけ」とのこと。おそらくはこれをバネにして、明日からはさらに激しくインを奪いにいくのだろう。

 明日は1R1号艇! 今日のリベンジを果たす格好のチャンスだ。3号艇に西島義則がいるが、仮に動いてきても絶対に譲るわけがない。今日味わってしまった後悔を晴らすべく、さらに強烈なインの鬼っぷりを見せてくれるだろう。明日は笑顔の幸夫さんに会いたい!

 

 

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 というわけで、明日はいきなり勝負駆けで、新鮮であり不思議であり、の2日目だったわけだが、ここまで不本意な成績となっている選手は、やはり必死な思いとなっているようだ。

 2日目を終えてボーダーよりひとつ下の位置となっている新美進司は、遅い時間帯まで懸命の整備。数字があるモーターで、しかも戦前は評判にもなっていたわけだから、大きく手を入れることはしにくいのだが、もうそんなことは言っていられないだろう。新兵の仕事をしつつも、自分の作業にも没頭。もっとも忙しい午後を過ごしていた一人である。

 

 

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 西田靖も、必死の調整を続けている。今日の終盤の時間帯は、ギアケース調整。ボーダー付近にいるだけに、やはり作業の手を緩めようとはしない。今日も、1便バスが出た後もピットに居残って調整を続け、整備室でもっとも姿を見かける一人となっている。明日の3R1号艇は必勝態勢だろう。

 

 

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 勝負駆けとは関係ないけど、ピット内を走り回っていたのは、新兵・鈴木茂正。11Rで転覆してしまった日高逸子のボート引き上げに参加したりもしていて、なかなか大変そうだ。12R直前には、整備室を駆け出て係留所へ。目が合うと、「まだ仕事が残ってました~」とニッコリ笑って係留所に駆け下り、マグネットで鉄くずを拾い集めていた。何年振りなんだろうなあ、この仕事をするのって。こういう姿を見ていると、やっぱり応援したくなりますね。

 

 

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 さて、10R快勝の松野京吾。唐津ピットには若い女性の検査員さんがいるのだが、前半のピットで、松野が彼女に敬語で丁寧に検査のお願いをする姿を見かけていた。なんとジェントルマンな! そう感心していたわけだが、ベテラン選手のそうした姿は実に素敵だと思うわけである。

 逃げ切ってピットに戻ってきた松野を、JLC展望番組の勝ち上がりインタビュアー・長嶺豊さんが待ち構える。それに気づいた松野は、直立不動になって、ハキハキと質問に答え始めた。まるでデビューしたばかりの新人が大先輩に接するかのように、礼儀正しく応える松野。カッコいいぞ!

 これまで名人戦ではなかなか結果が残せなかった松野だが、準優進出戦への進出は当確! 女子王座でまったく振るわなかった金田幸子が、優出を決めたらいきなり勝っちゃったように、松野の一気の爆発があってもおかしくない、と思うぞ。(PHOTO/中尾茂幸=新美 池上一摩 TEXT/黒須田)