１Ｒ、高塚清一が差し切り、加藤峻二が続く。おぉっ！ 139歳ワンツーか！ ひそかに３＝４の２連単をちょろり持っていたこともあって、ピットにいるというのに思わず声が出てしまった。
そのとき、モニターを覗き込んできた選手が一人。３番が先頭に立っているのを見て、「１番が本命ですよね？」と訊ねてきた。もちろんそうです。それはそれとして、高塚さんと加藤さんがワンツーで走ってます！「おぉぉっ！」その選手も叫んだ。
泉具巳である。しかし２マークで北川幸典が２番手に浮上。僕が溜め息をつくと、泉はにこにこと笑った。本当に惜しかったっすね～。その後もレースを見守る泉に持っていた出走表を差し出すと、「あ、大丈夫ですよ！ 見えますから！」。モニターの下には出走表が貼り出されていたのだ。近眼＆老眼の私にはまるで見えませんが……。泉、いい人だ！
その泉が、地上波放送のインタビューを受けていた。ピットには、インタビュアーと大勢のスタッフで、大きめの人の輪ができている。泉はそこでもニコニコと笑っていたのだが、ん？ それを見守る輪の中に、見たことのある人が……。高橋淳美だった。あっちゃんも同じようにインタビューを受けたはずで、その後の動きを見ると、すでに自分の収録は終えていたようだ。そのまま居残り、カメラの後ろに陣取って、泉にピースしたりウインクしたりとちょっかいを出していたという次第で、泉のニコニコはあっちゃんが引き出していた？ 優勝戦、近畿代表はアツミ・キャンベル＆グミぃ！ 仲良く、戦いの時を待っている。
実は、序盤の時間帯で優勝戦組の目立った動きはその程度なのであった。そう、なんともゆったりとした朝なのである。
金子良昭がインタビューを受けているのも見かけたが、収録を終えるとそのままインタビュアーたちと話し込んでいる。その脇を通ったとき、「沖縄のほうは……」なんて聞こえてきたので、間違いなく雑談だったと思う。余裕なのだ。同時に、今のところ優勝戦１号艇の重圧みたいなものはないということである。自然体で過ごせているわけだ。もっとも、百戦錬磨の金子には、最後までそうしたものとは無縁なのか？ とにかく主役と目される男は、穏やかに優勝戦の朝を迎えている。
長谷川巌が参加しているエンジン吊りは、豪華である。今村豊、西島義則がいるのだ。しかも今日は敗者戦を戦う、２人のスーパースターが。仮に優出していたとしても、朝からテンパっているわけはなかろうが、エンジン吊りの輪から笑い声や歓声があがっているのはやっぱりこのグループで、今村や西島の弾んだ声も聞こえてくる。その輪のなかで穏やかに微笑む長谷川。今日は、このグループの代表として優勝戦に臨むわけである。ちょっと緊張気味に見えるのは、気のせいか？ 今村や西島のリラックスが目立ってるだけかもしれないけど。
原田順一は相変わらずだ。エンジン吊りに率先して参加し、黙々淡々と作業をこなす。１Ｒのエンジン吊りが終わったあと、原田はそのままピットに残って、自艇のもとに歩み寄った。モーターの防水ケースを外し、キャブレターを覗き込む。つづいて木製定規をもってきて、ボートへの取り付けを確認する。それを終えると、すたすたと控室へ。ちょっとした点検作業のようだった。結局、序盤の時間帯でモーターやボートに触れたのを見たのは、このシーンだけである。これを書いている今頃は、何人かが動き出しているだろうけど。
こうしたなかで、特に余裕たっぷりに見えるのは、やっぱり大嶋一也である。実績が一枚も二枚も上の大嶋だけに、今日は特別な一日でもないだろう。エンジン吊りにもゆったりした歩調で向かっていたし、ピットの隅で関係者と談笑する姿もあった。なんとも自然体である。着込んでいるのは、ＳＧジャンパー。もちろん現在使用されているバージョンである。優勝戦メンバー中、これをもっているのは大嶋のみ。その姿で立っているだけで、格上の風格なのである。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩＝泉 黒須田＝高橋 ＴＥＸＴ／黒須田）
