BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――会話

 

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 今村豊オンステージは、どんなときでも繰り広げられるのである。

 2R、見事に差し切った今村は、ピットに帰還してボートリフトに乗ってせり上がってきたとき、もうしゃべくりまくっていた(笑)。スタートでやや後手を踏むかたちになっていたが、スリット後に伸びて追いついての差し一閃。そりゃあ気分も良かろうが、話しかけられている今村暢孝は、なにしろ自分が差されたのだから、苦笑いを浮かべるしかない。ピットに上がっても、さらにしゃべくりまくるミスター。ノブさんはやっぱり苦笑いで、二人のボートが離れてからようやく、悔しい表情を浮かべることになった。で、ミスターのおしゃべりは、山口剛に引き継がれ、山口はミスターに話しかけられておかしそうに笑っていた。エンジン吊りのにぎわいのなかで、こちらには話し声は少しも届いてはこなかったが、勢い込んでいるミスターを見ながら、なんとも幸せな気分になった次第である。

 

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 なお、1Rでは石渡鉄兵がやはり2コースから見事なまくりをみせた。会心の一撃のはずで、ゴンロクから巻き返した一発だっただけに、安堵の思いも強かっただろう。で、石渡といえば、ミスターとは正反対の寡黙で淡々としたお人柄(弟子の作間章いわく「飲んだらまるっきり変わります」とのことだが)。同じ2コースからの勝利であっても、レース直後の様子はやっぱりミスターとは正反対で、嬉しそうに笑いながら話しかける毒島誠とは対照的に、穏やかに微笑んでいるのみ、なのであった。鉄兵の温厚な表情もまた、見る者を幸せな気分にするものである。

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 寡黙な印象があるのは、中澤和志も同様だ。接触の機会があまり多くなかったので、実際のところはよく知らないが、ピットでの作業は黙々とこなしている印象があり、笑顔もそれほどたくさん見かけるというわけではない。

 そんな中澤が、今朝は自ら菊地孝平に歩み寄って、かなり長く会話を交わしていた。菊地の顔つきも真剣で、時に身振り手振りで中澤に言葉を投げたりしている。中澤も、心安い同期生が相手ということもあるのか、饒舌に語りかけていた。地元の雄である同期生に、何かアドバイスを求めているふうでもあった。

 その次に、中澤は平石和男のもとに向かっている。同期生の次は、信頼している先輩。会話の様子は、まったく同じ。中澤は語りかけ、平石が身振り手振りで言葉を返す。中澤がこんなにも話をしている姿って、あんまり見たことないなあ。というか、初めてかも。なんかいいもの見た、という気にもなった。

 

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 さて、開会式では元気いっぱい、インタビューなどに登場しても饒舌な辻栄蔵。だが、いざ調整に入ると、これがもう、とことん徹底的に己の世界に入る。それも、調整自体もまた徹底的で、時間を目いっぱい使う。妥協という言葉は辻栄蔵の辞書にはなし。そんな雰囲気なのだ。これまで何度、ギリギリのギリギリまでペラを叩いているのを見たことだろう。12R出走で10R発走直前まで本体整備を行なっているのを見たこともあった。あ、あれは浜名湖だったな。濱野谷憲吾は辻の整備を見て、その日のレースはもう終わったのだと思っていたようで、整備を終えたモーターを装着し、水面に向かおうとした辻に「これからレースっ!?」と素っ頓狂な声をあげていたものだった。

 もちろん、今日もとことん! 3R出走の辻は、2R発売中にもペラを叩く。ペラ室を出て、装着するため係留所に降りようとして、その途中で突如回れ右をして、またペラ室へと戻って行ったりもしていた。やがてピットには「辻選手、展示待機室へ」とアナウンスが響く。「すみませーん! チルトマイナスでーす!」と走って待機室へと向かう辻。まさしくギリギリまでの調整、だったのだ。

 もし辻が優勝戦に進出したら。今節、最後にすべての調整を終える選手は、間違いなく辻栄蔵である。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)