ケンゴ事変
「東都のエース」と呼ばれて15年ほどになるだろうか。今、濱野谷憲吾のレースっぷりに異変が起きている。その予兆は今年の初頭あたりからあった。「2コースではほぼ100%差し」と誰もが決めつけていた憲吾が、いきなりガンガンまくりはじめたのだ。届いても届かなくてもジカまくり。時を前後して、伸び型の仕上がりになるケースが増えた。以前は乗り心地と出足・回り足に主軸を置いていたが、明らかに行き足~伸びにも力を入れるようになった。そしてそして、ここ数カ月、いきなりスタートが早くなった。去年まではコンマ16前後が憲吾相場だったのが、ここ3カ月はコンマ13。
つまり、憲吾が自力で勝ちに行くようになった。
どんな経緯があったのかはわからんが、俄然やる気になったのである。「この子は、やればできる子なんだけどねぇ」と母親や先生から言われても、どこ吹く風でのんびり超マイペース。私の中で、ここ10年の憲吾はそんなタイプとして定着している。やればできる子、だけどやらない子。私だけでなく、東京の舟券オヤジの99%はそんな母親や先生のような視線で憲吾を見てきたはずだ。
やればできる子が、ついにやる気になった。今節も、その変貌を感じずにはいられない。まずは昨日の11R、4カドの憲吾はスロー勢よりも半艇身ほど覗いた。ただ、5コースの中島孝平はさらに半艇身ほど抜け出していた。かつての憲吾なら、「中島をブロックしてから二番差し」が定石だった。憲吾=止めて差す。だが、今の憲吾は違う。隣の中島には見向きもせず、先に握った。全速で握って締めて、強烈なまくり差しを繰り出した。SGでセンターからこれほど迅速かつ過激に攻める憲吾って、ちょっと記憶にない。
そして、今日の1Rである。スリット同体横一線の5コースから、自力でぶん回して一閃のまくり差し。この早さ、この速さ、この切れ味……ちょっと古い江戸っ子のボートファンなら誰でも知っている、これが元祖「憲吾スペシャル」だ。憲吾がデビュー当時から頻繁に繰り出していた必殺技だ。ベテランの域に達した憲吾にはもう無理か、と思われていた大技だったが、さすが憲吾である。やろうと思えば、いつだってできる子なのである。
今夜の平和島(または江戸川、または多摩川)近郊の酒場は、共通の話題で持ちきりだろうな。
「まっさか、あのサシノヤがさぁ……」
「あのヘマノヤがよぉ……」
誰もがニヤニヤ笑いながら、憲吾の過去の失敗レースのあれこれを口にする。そんなドロドロ親父たちの顔が目に浮かぶ。みんな、今日のレースのことはあまり話さないのだ。そして、みんながみんな、美味い酒を煽りながらこう思っているのだ。
うん、やっぱあいつは、やればできる子なんだよ。
しゃくり光太郎
SGに復帰してみたらば、これである。SG返り咲き初戦のオールスターでは優出3着、銅メダル。2戦目となる今節も、2日目を終えて予選トップに躍り出た。今垣光太郎、やはり強い。強い、と改めて実感したのは、今日の6Rだ。2コースからハンドル一撃の差し抜け。インの湯川浩司がまくり艇をブロックしたという流れも味方したが、それにしても凄まじい切れ味だった。うまく言えないのだが、初動からハンドルを入れる角度からギュッギュッギュッと何度かに分けてハンドルを切る姿から、他の選手の差しとは違って見えるんだよなぁ。人間臭いというのか、昭和臭いというのか……。
これは、10Rのイン逃げでも思ったことだ。バック直線で菊地孝平に詰め寄られたとき、激しく上下に上体を揺さぶった。光太郎名物、しゃくり逃げ。
ああ、この男が帰ってきたんだなぁ。
しみじみ、そう思った私である。スタート展示でも、すべて他艇より1~2艇身くらい遅れるし(笑)。そんな“平常心”の光ちゃんがいるSGは、やっぱりいつもより華やいで見えるのである。
予選トップとはいえ、まだ2日目。しかも今日は1・2号艇を使い切ったわけで、明日からがガチの正念場となる光太郎(残り2走は3・6号艇のはず)。最終日の最終レースを先頭で駆け抜けるまで、「完全復帰」の言葉は心の中にしまっておくとしよう。
ダービー勝負駆け!
毎度のことだが、オーシャンカップにはちょっとした隠しスパイスが存在する。7月末で雌雄が決するダービー勝負駆けだ。とりあえず、ボーダー付近の選手を記しておこう。
①大崩れは禁物レーサー
★田中信一郎 7・33
★深川真二 7・31
②バリバリのボーダー前後レーサー
★★★西山貴浩 7・28
★★★★吉田拡郎 7・23
★★★興津藍 7・18
★★★谷村一哉 7・17
③ボーダーまでもうひとふんばりレーサー
★★前田将太 7・15
★★平本真之 7・13
★★吉田俊彦 7・12
(★はガチンコ度。勝率は昨日までのデータ)
ダービー参戦の推定ボーダーは7・24。②ボーダー前後はもちろんのこと、③ボーダーよりちょい下の面々も目の色を変えて走るかも? そういえば、③の面々の成績がかなりいいような……。この「もうひとつの勝負駆け」については、また5日目あたりにお伝えします!(photos/シギー中尾、text/畠山)