BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――がんばる

 

 

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 いつだったか、寺田千恵がしみじみと言っていたのである。女子戦がこんなにもブームになる前のことだ。

「女子選手はみんな一生懸命がんばってる。だから女子戦がもっと注目されてもいいと思うのよね……」

 あれは予言だったのか、単に切なる願いだったのか。今では寺田の言葉通りに、ボート界の大々的な売れ筋レースだ。

 たしかに、女子選手たちはがんばっている。いや、SGのピットでもみんなとてつもなくがんばっているわけだが、王座のピットではいつも、真っ直ぐなまでにがんばっている女子選手たちを目の当たりにする。言うまでもなく、技量はSGに比べるべくもない。モーターやペラの調整力だって、圧倒的にSGレーサーたちが勝っている。だが、勝利を渇望し、機力のパワーアップを目指す思いに、SGも女子戦もない。だから、女子選手たちのがんばりというのは、「すげえなあ」と感心するというよりは、どこか胸に迫るものと見えてくる。寺田の言葉も、その姿を指したものだろう。プロの世界では、がんばりと注目が比例するとは限らないが、彼女たちの奮闘を見れば、寺田と同様の気持ちになるというものだろう。

 

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 今日ももちろん、最後の最後までがんばり続ける選手たちがいた。やはりというか何というか、若手選手が多い。たとえば山下友貴。試運転を遅くまで続け、プロペラ調整室にもこもり、その往復をしている姿は、やはりどこか健気だ。山下といえば、レース前でもぎりぎりまでペラ調整を粘る様子が印象的な選手だが、レースが終わろうともギリギリまでがんばる。今節はパワー的にはやや苦戦気味のようだが、エース機を引いて優出した昨年の賞金女王シリーズでもほぼ同様の努力をしていたから、山下はいつだって頑張り屋さんなのだ。

 

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 樋口由加里も、同じような動きをしていた一人。王座初出場だった12年多摩川では、試運転ができない時間帯でも係留所でボートに乗り、守屋美穂とともにモンキーターンのフォームを研究、練習していた姿が思い出される。もはやレディチャン常連の一人となった今も、奮闘する姿に変わりはない。

 樋口は、とにかく小柄。谷川里江らと並んで、身長は艇界でいちばん低かったはずだ。しかも、樋口は童顔でもある。体重はもちろん僕の半分以下で、たぶん僕と並んでいたりすれば通報されるのではないかと思われる(単なる取材ですので、見かけても通報しないでください)。

 そんな樋口のがんばっている姿は、やはり健気に見える。どうかパワーアップに成功してください、とこちらまで祈りたくなったりする。

 

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 がんばりと注目が比例するとは限らないように、がんばりと結果が比例するとは限らない。それでも彼女らは徹底的にがんばる!

 ピットでもホンワカとしている金田幸子に面白い話を聞いた。女子の最低体重は47kg、これを下回る体重の選手はオレンジベストで体重を調整する。ベストに重りを入れるのだ(男子も同様。50kg以下の選手が着用)。金田は、出走表には43kgとある。当然、オレンジベスト着用。ところが、金田の場合、他の選手とちょっと違った着方をしているのだ。

 通常、ベストはカポックの上に着る。カポックに巻きつけるようにしているのだ。だから、試運転時には一目瞭然。陸に上がれば、カポックを脱げばベストも自動的に脱げるというわけだ。

 ところが、金田はカポックを直接着こむ。直接というか、乗艇着の上に着ているのだ。金ちゃんのことだから、ちょっと変わった着こなしにしてるんだろうなあ、今日も装着場で踊りながら歩いてたしなあ、と思ったら違った。「カポックの上に着たら、身体が振られるんですよ」と言うのだ。

 カポックはかなり厚みがあるから、その上に着るとオレンジベストは身体の芯からはかなり遠くなる。そこに重りがあるわけだから、遠心力が強く働くわけだ。しかも、救命胴衣たるカポックは、普通の洋服のように身体にぴたりと張り付いているわけではない。ベストに入った重りは不安定になるわけだ。それだと操縦に支障を来たす。しかも、3kg以上の重りを装着する金田だから、そこに遠心力が強く働くと……。なるほど! 金ちゃん、昨年の女王であるあなたなのに、イメージで考えちゃってごめんなさい。SGでも通用していた金田なのだから、勝利を得るためにいろいろと考え、模索し、試しているに決まっているではないか。「歩くより遅い駆け足」とか「踊りながらの歩行」に惑わされている場合ではなかったのだ。

 それぞれが、それぞれの方法で努力し、勝利を目指して、女王の座を虎視眈々と狙う。それがレディースチャンピオンという舞台である。女子ファンも、そうでない方も、ぜひぜひ明日から熱視線を注いでください!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)

 

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開会式ではパフォーマンスで魅せてくれる市村沙樹も、ピットでは表情一変で奮闘!

 

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内池“福井の逆襲”久貴が大好きな笑顔です。

 

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それにしても、平山智加は女子戦では風格をめちゃ感じますね。