BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――クールなヒロイン、誕生!

 

 

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「地味ぃ~に地道に」

 優勝後の会見で、水口由紀はそう言った。目立つのが苦手、というなんとも珍しいヒロイン。本人がそう言うので、失礼ながら言わせてもらえば、たしかに派手なタイプではない。今日のイン逃げがそうだったように、きっちり仕事をして、きっちり舟券に絡んでくる職人タイプだろう、どちらかといえば。

 なにしろ、ピットでは海野ゆかりと武藤綾子のほうがはしゃいでいたのである。大歓喜に沸く仲良し二人組に、淡々とした笑顔でこたえている水口。うん、たしかに地味ぃ~に地道に、だな。

 おそらく優勝戦1号艇のプレッシャーはそれほど感じていなかったと思う。レース直前の雰囲気に異常はまるで見当たらなかったし、今節ずっと見てきた水口由紀そのものだった。

「インコースだから勝ちたいと思ってレースに行っていない」

 これもなんとも珍しい哲学と言うしかないのだが、今日もその境地でレースに臨んでいたとするなら、なかなか真似できない“強さ”である。

 とびきりクールなヒロイン誕生! こんな女王もまた、オツなものだ。「先のことは考えない」と本人は言うが、こちらとしてはクイーンズクライマックス(賞金女王決定戦)でもクールにふるまう水口を見るのが楽しみで仕方がない! 来年のクラシック(総理杯)での様子も楽しみだな。淡々と大仕事をこなしてみせる水口由紀に期待! あ、その前のレディースチャレンジカップも注目ですぞ。

 

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 GⅠ初優勝だから、もちろん水神祭! こちらもまた、水口本人よりも海野や武藤のほうがはしゃいでいた。なにしろ、海野はレースが2周目を走っている頃にサンダルに履き替えてピットまで出てきていたのだ(気が早すぎです・笑)。この時をいちばん待ちかねていたのは海野で間違いない。同支部の後輩・遠藤エミももちろんサンダル姿。近畿地区最年少の今井美亜はカポックを着ているぞ。泳げないのか? 自分の水神祭では着てなかったはずだが。そんなテンションの高い輪のなかで、ちょっと高揚しながらも淡々としている水口。他の選手があまりにハイテンションで、BOATBoy山田愼二カメラマンは水口を見失ったそうです(笑)。

 

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 おめでとう、水口由紀! 次は来年の3月、SG初1着の水神祭、見れますよね? 期待してます!

 

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 敗者についても。平山智加の表情が、実にカタかった。正直、怖いくらいの顔つきだった。レースでは、思い切って攻め込むターンを見せている。しかし及ばず。道中捌いての3着は、さすが格上のハンドルであったが、平山自身がそれに納得しているはずがない。過去3度の1号艇での敗退では、涙も見せたし、うなだれもしたし、落胆のほうが強く表現されていたように思う。だが、今日は憤りにも近い悔恨が表現されていた。格上の姿だ。やはりこの人は、着実に強くなっている。たくさんの経験が、強者・平山智加をじわじわと形作っていっているのだ。今日の悔恨を経て、平山はさらに力を蓄えていくだろう。SGで結果を出す日も、きっと訪れると思う。

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 小野生奈の表情は、実に暗かった。泣き顔にも見えたほどだ。外枠だから気楽に臨める、なんて話は優勝戦の前に何度も聞いてきた。たとえばSG初優出の選手に緊張してる?と問いかけると、「1号艇じゃないから」という答えは何度も返ってきた。小野も、おそらくはそういう心境ではあったはずだ。だが、言うまでもなく、諦めていたわけではない。外枠だろうが、勝利を心から欲して臨む。だから、敗戦をおおいに悲しむ。元気ハツラツ小野生奈が、元気をなくすのである。今年2月にイベントで一緒になったとき、「私、すぐ泣いちゃうんですよね」と笑っていた小野。今日も控室に戻って涙していたのかもしれない。そういえば、松本晶恵も小野に近い表情をしていたな。松本だって、やっぱり優勝を狙っていたのだ。

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 悔恨を表に見せていたのが20代の3人だった、というのは偶然なのか。“ベテラン組”の谷川里江も寺田千恵も、悔しくないはずがないのに、淡々とレース後を過ごしていたのは、対照的であった。寺田が見せていた笑顔にはレース前などとは違い、複雑な感情が混じってはいた。谷川も、少しだけ顔つきに厳しさがこもってはいた。だが、はっきりと悔恨が表情にあらわれていたわけではない。これもキャリアのたまものだろうか。

 水口の水神祭を取材して記者室に戻る途中、帰途につく谷川と顔を合わせた。おつかれさまでした、と声をかけると、やっぱり淡々として同じ言葉を返した。カッコいいな、と思った。もちろん若者の悔しがり方もカッコいい。一方で、悔しさをぐっと噛み締めるキャリア組もやはりカッコいいのだ。この優勝戦は、偶然にも40代vs20代という様相を呈した。若者のスピードとパワーか、ベテランの捌きと意地か。そんな見方もできたわけだ。結果、それぞれが、それぞれらしい戦いぶりとふるまいを見せてくれたように思う。もちろん勝った水口も含めて。その意味で、実に面白い優勝戦だった! それぞれがまた、水面でらしさを爆発させてくれることを期待しています!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)