3カドのリスク
10R
①遠藤エミ(滋賀)13
②桐生順平(埼玉)08
③松尾昂明(福岡)16
④西山貴浩(福岡)07
⑤長尾章平(山口)05
⑥小坂尚哉(兵庫)05
やはり、ハイライトは桐生と松尾、同期ライバルの兼ね合いだった。3コースの松尾が颯爽と艇を引っ張ったのだ。スタート展示ではやらずの3カド攻撃。私と黒須田は、前夜からこの3カドをうっすら予想していた。同期の桐生を攻め潰す上でも、同県先輩の西山を生かす上でも、十分にありえる戦法だ。ものの見事にハマれば、3=4の福岡ワンツー決着が濃厚になる。
が、やはり慣れない3カドのスタートは難しい。起こしのタイミングがやや遅れて、内の桐生、外の西山から半艇身ほど凹んでスリットを通過した。ただ、そこから伸びる伸びる。この同期の伸び足を警戒していたであろう桐生は、これ以上ないほど丁寧に面倒を見た。しばらく直進して松尾が金縛り状態になるまでブロックし、それから舳先を返して差しハンドルを入れた。もちろんこの戦法は、松尾封殺にたっぷり時間をかけた分、それなりのリスクも生じる。松尾の外の艇にも、戦闘態勢を整える時間が与えられた。
そのメリットを生かして外から全速で流れ込んだのは、5コースの長尾だった。一瞬にして突き抜けた。おそらく桐生は、この外からの出し抜けも想定していたはずだ。ここは準優。何よりも怖いのは強引なまくりを喰ってぶっ飛ぶことなのだ。バックでしっかり2番手を取りきった桐生は、後続に何もさせない完璧なターンで2着を確定させた。SGの準優で何度も揉まれた男が魅せた、準優らしい走りっぷりだった。
1着・長尾、2着・桐生。
今日の長尾の勝利はどちらかと言うと展開の勝利であり、正味のパワーは測りにくい。昨日までの走りも含めて、私の評価は「中堅上位」くらいだと思っている。
桐生の足は全体的に中堅レベルで、伸びだけが上位級。この伸び足も日によってバラツキがあり、気候やレース番組によって調整を変えているのだろう。4号艇の明日は、この伸びをどう加減するか。土屋に連動して前付けする作戦なら伸びより出足系統を重視するだろうし、ダッシュを決め込むならさらに伸びを特化させるに違いない。桐生の性格を考えると、私は後者を選択すると思う。
3カドの脅威
11R
①篠崎元志(福岡) 19
⑥山口達也(岡山) 26
②土屋智則(群馬) 06
③渡邊雄一郎(大阪)04
④稲田浩二(兵庫) 03
⑤磯部 誠(愛知) 15
記者席がどっと沸いた。山口をすんなり入れて3コースを選択した土屋が、迷わず舳先をピット方面に向けたのだ。なんとなんと、2レース連続の3カド攻撃!! 少なくとも、ボート歴20年の私の記憶の中に、2レース連続はないな。うん、素晴らしい。若いんだから、やりたいことはがんがんチャレンジしてもらいたい。選手間で不穏な空気が流れてもいいじゃないか。その因縁や確執が、水面での闘いをより熱いものにするはずだから。
そして、土屋は3カドのスタートをものの見事に成功させた。コンマ06!! 内の2艇が19、26なのだから、防ぎきれるはずもない。土屋はやや外を警戒して直進してから、満を持して舳先を左に傾けた。で、内の2艇はなす術なく首を引っ込めるかと思いきや……インの元志は敢然と飛び付いた。獰猛な犬が反射的に人間の足首に噛み付く。そんな飛び付きだった。準優の戦法としてはどうかという気もするが、これが元志だ。だからこそ、この男はここまで強くなったのだ。
玉砕的に飛び付いた元志は、やはり完全に噛み付くことができないまま土屋の引き波にハマッた。が、甘噛みとはいえ、土屋も無傷ではいられない。外へ外へと流れてゆく間に、4コースの雄一郎がズッポリと差し抜け、さらに5コースの稲田の差しまで突き刺さった。その後方では山口の艇がひっくり返っている。3-4濃厚というムードで迎えた2マーク、渾身の差しハンドルを入れた土屋が稲田を捕えきった。
1着・雄一郎、2着・土屋。
10R同様、いや、それ以上に雄一郎の1着は展開の勝利だった。土屋さまさまのマーク差し。だからパワー云々はわからないが、昨日までの気配を見るに「節イチ級」だと思っている。前検はトップ級の伸び型で、それを徐々に手前にシフトして全部が強めのバランス型に仕上げた。明日は現状維持でも十分に優勝を狙えるパワーだが、「3カドもあり」という発言を鵜呑みにするなら、今までの整備とは逆行して伸び足を強化させるかもしれない。
土屋の足もバランス型で、特にターン回り、サイドの掛かりが強い。今日は3カドを選択したが、明日は前付け2、3コースからこの回り足が生きるレースを目指すだろう。パワーだけなら、2コースから峰を差しきっても不思議じゃない足だと思う。
蔭りある快勝
12R
①峰 竜太(佐賀) 17
②黒井達矢(埼玉) 16
③平山智加(香川) 14
④篠崎仁志(福岡) 16
⑤上野真之介(佐賀)15
⑥河合佑樹(静岡) 17
2レース続けて進入も配当も荒れたが、このレースには荒れるべき要素がほぼひとつもなかった。パワーは準優としてはやや低レベルな横並び、超穏やかな枠なり3対3進入、イン峰の起こしは130m、そしてスタートは美しいまでの横一線……これだけの条件が揃って、インの峰を攻め潰せるレーサーはSGにもいないだろう。
しっかり1マークを先取りして、回った瞬間に勝利をほぼ確定させた。2着も、2コースから小さく回った黒井が難なく抜け出した。バック直線で縦長の1-2のラインができる、実に穏やかなレース。3着争いがややヒートアップしたが、「準優」としては意味をなさない競り合いだった。
1着・峰、2着・黒井。
他の2レースよりはるかに穏便だったものの、パワー評価としてはいちばん参考になるレースでもあった。道中で徐々に峰が黒井に詰め寄られていたのだ。黒井の足が突出しているとは思えないので、峰のパワーも推して知るべし。決して威張れるような足ではないとお伝えしておく。勝ちタイムも、峰のひとり旅にしては平凡だったし。もちろん、明日もこのレースと同じ条件が揃えば99・99%逃げきれる。だが、少なくとも進入は今日よりはるかにシビアなものになるだろう。このレースの足を見る限り、明日は「鉄板の1号艇」とは呼べない。
黒井の足は、あまり特色のない中堅上位。悪い部分も見当たらない代わりに、褒めるところも難しい。そんな見立てなのだが、今日の追い上げを見る限り、上位レベルまでアップしている可能性がある。峰と黒井の相対評価をどう考えるか、だな。私は、「峰の足が中堅レベルに達していないから、黒井がよく見えた」と勝手に思っているのだが、どうか。(photos/シギー中尾、text/畠山)