BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@シリーズ――見どころだらけの優勝戦!

 

 

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 痛かった。9R、3艇がフライング。坪井康晴、吉川元浩、鎌田義。ピットに戻った3人は、一様に硬直した表情を見せていた。

 追い風が強くなっていた時間帯。青山登さんは「平和島は、潮が高い時の追い風はスタートが早くなる」とレース前から心配していた。それが現実になるとは。しかも、3艇もの複数Fになるとは。この3人は、来年オーシャンカップまでSGには出られない。吉川と鎌田は、地元クラシック(総理杯)を3月に控え、特に鎌田はその勝負駆けだった。

「勝負に行ったんやけどね……」

 鎌田の消え入るようなその声は、このうえなく痛々しいものだった。ピットに戻ってきた直後には、師匠である松井繁が優しい笑みを鎌田に向けている。王者も、鎌田の心中は察するに余りあるものだったのだろう。

 

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 その痛みの上で優出を手にした平田忠則よ、彼らの思いも背負って戦え! 特に鎌田は同期生である。「白井くんが80期の壁(SG覇者が今年の夏まで出なかった!)を壊してくれました。だから僕が頑張ることで、グランプリの白井くんの後押しになればいい」と平田は述べている。明日は80期が大暴れする日になる! 平田は胸を張って、自身のSG初優勝に全力を尽くすだろう。

 

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 痛々しいというほどではなかったが、平本真之の悔しさも相当にデカい。優勝戦1号艇が見えていたなかで、まさかの2着。相手が悪かったという感もあるが(70号機を手にした桐生順平だ!)、しかし、最大のチャンスを逸したという思いは大きい。

 もし準優を勝って、優勝戦1号艇を手にしていたなら。2号艇は瓜生正義だった。

 11年グラチャン優勝戦。1号艇・平本真之。2号艇・瓜生正義。あの日と同じ組み合わせだったのだ。僕は、リベンジの機会が訪れたと思った。若さを露呈して瓜生にまくられてしまったあの日を本当の意味で払拭するのには、最高のチャンスだと思ったのだ。

 しかし、平本は2着で優勝戦4号艇。ただ、これもまたリベンジの好機である。

 あの日は1号艇で瓜生にやられた。明日は1号艇の瓜生を破る。平本にそれを振ったら、即答だった。

「ひそかに狙ってますよ!」

 ほんの5m先に瓜生がいたのだが、それでも平本は言い切った。もちろん、1号艇の瓜生は超強敵である。だが、平本は4年越しのドラマをそういうかたちで完結させたいと願っている。後悔のない攻撃を! それができれば、平本はまたひとつ、ステージを上げることになるだろう。

 

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 96期からは篠崎元志も優出を果たしている。5号艇だから、枠なりだとするとダッシュ2艇の96期ラインが出来上がる。平本は、それを意識したコメントも出していた。篠崎にとっては、「グラチャン権利」が最優先の模様。今年ほとんどのSGを棒に振った篠崎は、グラチャンの点数が当然足りていない。それを一気にクリアするのが、グラチャン優先出場権の条件である「SG優勝戦完走」。優出を果たしたことで、ほぼそれを引き寄せたことになる。つまり、明日の篠崎の目標は何よりもゴールすることにある。

 でも、どうですか。まるで当たり前のようにシリーズ戦で優出を果たした男が、そこまで気負いなくレースに臨むのである。しかも、平本は闘志を燃やしている。攻めていけば、外に展開が生まれる。怖いな~、元志。1号艇にすわる巨大な壁=瓜生先輩を破ってしまうのはこの人ではないのか? リラックスした表情で語る篠崎を見ながら、僕はむしろ感じる者があったのだが、どうだろう。

 

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 リラックスして優勝戦に臨むのは、地元SGで意地を見せた濱野谷憲吾も同様だ。6号艇だから、地元と言っても、気負いはまるでない。なにしろ、コースを問われて、「今年最後のレースなんでね……」と溜めて、前付けか?と思わせたところで「枠なり基本で行きたいです」と言い切って笑わせているのだ。まあ、もはや百戦錬磨のキャリアとなった濱野谷にとって、ここでの6号艇が空回りさせるものであろうはずはない。

 ただ、会見を終えた濱野谷は帰り際、こちらに向かった「良かったぁ~」とホッとし切った笑顔を見せた。誰に言ってるのかと思って後ろを向いたら、誰もいなかった。俺に言ったのか? BOATBoy12月号のチャレンジカップ特集で、「あんたが平和島グランプリに出なくてどうすんの!」的な大煽りを入れたわけだが、グランプリを逃し、しかしせめてシリーズでは活躍しなければという思いが、濱野谷にあったのだろうか。優出は、ひそかにノルマだった!?

 だとするなら、憲吾も怖い! 無欲のままに、走り慣れた勝ち筋に乗っかっている、なんてことがあるかもしれないからだ。そう考えると、見たいなあ、久々のSG優勝。

 

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 さて、トライアル1stを敗退してシリーズに合流した選手が2名優出。しかも内枠を占めることとなった。

 まずは70号機を引いた桐生順平。グランプリで大暴れするモーターかと思われていたが、やはりシリーズに入れば素性は図抜けている。それに桐生が乗っているのだから、優出はまったくもって不思議ではない。桐生自身も、今日の平本を交わし去ったまくり差しについて「完全にエンジン(のおかげ)です」と開口一番、語っている。

 そんな桐生が、こんなことを言った。

「2コースは差し、とは思ってません」

 明日はツケマイなのか!? あるいは、瓜生に警戒させての差しか!? さあ、面白くなったぞ。コメントは基本、謙遜したものが多かったが、この一言は桐生の根っこにある勝負師魂が言わせたものだろう。明日の優勝戦のカギを握っているのは、ズバリ桐生! その戦略を想像するのは、グランプリに匹敵する面白さがある。

 

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 そして、1号艇・瓜生正義! トピックとなるのはもちろん「6年連続SG制覇の偉業なるか」。まさかシリーズにその話題が持ち込まれようとは、戦前はまったく想像してなかったけど。

「(トライアル1stで敗退した)2日目には諦めました。でも、よく考えたら、まだ残ってる、って」

 さすがに意識もしていたというわけだ。そして、艇界レコードとなる記録に王手をかけた。つまり、明日はシリーズ優勝戦もメーンイベント級の見どころを持つのである。

 淡々としている瓜生ではあるが、ここまできたら狙ってくるはず。「明日は12Rだけ見ればいいや」なんてのは、みなさん、NGですぞ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)