BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット@グランプリ――さあ、ファイナル!

 

 

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●安堵●

 ピットに上がった瞬間、菊地孝平は出迎えた服部幸男に抱きついた。

 ひそやかにそーっと。腰のあたりに手を回して、身をゆだねるように力を抜いて。おそらく、菊地は服部に何か耳打ちをした。服部はにまーっと笑った。そして、まるでいい子いい子をするみたいに、菊地の頭をぽんぽんと叩いた。よかったな、よく頑張ったじゃないか。服部は口を開きはしなかったけれども、そんな声が聞こえた気がした。

「初日2日目は空回りしていた」

 と菊地は言う。気合パンパンだったのだ。それはおそらく、賞金ランク1位でここに来たことへの気負い。優勝がノルマとは言わないが、堂々先頭を切ってこの舞台に辿り着いたプライドもあっただろう。だが、第1戦と第2戦は結果につながらなかった。ともに好枠だったのに。

「今日は開き直っていった」

 もう後はない。いろいろ考えたって仕方がない。ただ今まで通り、己を信じて戦うのみ。そんな心持になったのだろう。

 それが結果に直結した、とは思わない。ただ、今年の菊地の戦いぶりを思えば、そのほうが結果につながるのは明らかだろう。そして、結果を出して、優勝戦に乗った。頼れる先輩に甘えるように身を任せたのは、ただただ安堵の思いからだろう。本当の勝負は明日だが、ひとまず苦しんできた3日間は報われた。

 

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●立て直し●

 優出を決めたというのに、井口佳典に喜びはあまり見えなかった。勝った菊地を祝福する笑顔は見せていたが、本音ではあるまい。自分が差されたのだ。必勝の一戦で自分を負かした相手なのだ。思えば、昨日の段階でほぼ当確を決めていたのだから、今日はただただ悔しさがつのるのが当然かもしれない。

 調整に失敗したという。それもまた、井口の気持ちを暗くしたか。優勝戦は2号艇。ということは、1着でも2号艇になることは変わらなかった。しかし、今はそれはどうでもいい。やはり負けたことが悔しいのだ。

 とはいえ、「でも、これでわかったんで、明日でもう一段階、調整できる」と前に向き直すことができたのは好材料。菊地のように開き直って、明日また立て直すことができるか。井口に笑顔を生めるかどうかは、そこにかかっている。

 

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 茅原悠紀も、井口とよく似た雰囲気だった。同じ1号艇。そして、白井英治にまくられた。「スリット過ぎからは、ヨシっと思ったくらいの感じだったのに、石野さんの向こうから4号艇が見えてきて、初動のときにはもう締められていた」。つまり、なすすべがなかった。これは悔しい。白井の足を思い知らされたという意味でも、優出の喜びは半分だろう。

 旋風と言ってもよかったトライアル1stでの大活躍。しかし2ndでは、健闘し、優出までは果たしたものの、ひとつの壁にぶつかった。この舞台で戦う者たちの凄味を肌で感じもしただろう。だから、6号艇での優出に茅原の表情は冴えない。

「爪痕は残したいけど、コース獲りで動かさなきゃムリですよね? ここまできたら登番とかは関係ないと思うし、川﨑さんにアドバイスもらって……」

 前付けか!? 茅原らしくないし、実際入れてくれる人がいるメンバーではないと思うが、しかし茅原はそこまで考える。そのスタンス自体は素晴らしいと思いますけどね! 何が何でも勝ちに行く姿勢。きっと茅原にはこの先何度もチャンスはあるだろうに、しかし明日の戦いに全力を注ぎこむ。それはアッパレな態度だ。

 だから、茅原は明日、懸命な立て直しに取り掛かるだろう。若者が挑む初めてのグランプリ。その姿だけでもドラマである。

 

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●勝負師●

「6枠であれば、いろいろ考えます。ここはチルト3度もあるし」

 石野貴之はたしかにそう言った。僕や畠山は最近、ひたすら田村隆信に肩入れしているわけだが、ここにも「田村隆信」をやれる男がいた! 石野には悪いけど、その言葉を聞いた瞬間、「6号艇になればいいなあ」なんて思ってしまった。すみません。

 結果5号艇だが、しかし石野はもちろんただ展開を待つようなことはしないだろう。

「前回(10年)は地元の住之江だったし、若さもあったし、楽しんで走れた。でも、今回はそれを捨てて、勝負に徹します」

 外枠ではあっても、グランプリの優勝戦を面白くするのは、この男かも! そんな期待感にあふれる、石野貴之の言動なのであった。

 今節の石野は、ひたすら凛々しい。でも、この人、基本的には童顔ですよね? 笑うとキュートですらある。しかし、それを封印して凛々しく屹立する浪速の勝負師・石野。明日のレース後には、どんな表情を見せてくれるのだろうか。

 

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●次こそ!●

 敗者についても若干触れておきたい。どの選手も、悔しさにまみれていることだろう。ファイナルに進めなかったことに、おおいに落胆もしているだろう。

 そのなかに、松井繁と山崎智也と池田浩二、3人の歴代覇者がいるのだ。ファイナルに乗ることと順位決定戦に乗ることの違いを知り尽くしている3人である。この結果に納得しているはずがない。

 ただ、率直な感想として、わりとサバサバしてるなあ、と思いました。

 

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 昨日一昨日と強烈に落胆ぶりを見せていた毒島誠も、結果は無念ながら、トライアルを戦い抜いた達成感なのか充実感なのかを覚えているような雰囲気だった。もちろん、反省点も見つかっただろうし、それを胸に「来年こそ!」となっているだろうし、納得などしていないだろうが、しかし昨日一昨日の表情とはたしかに違った。

 

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 池田浩二も同様だ。今日の苦笑いは昨日よりもずっと明るかった。「終わっちまったぁ」てな感じ? 山崎智也の場合は、悔しい時こそ笑うというイメージがあって、だから毒島と会話を交わしながら穏やかな笑みを浮かべているあたり、本心が読みづらくはあるのだが、しかし極端に落胆をあらわにしていたわけではない。

 

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 丸岡正典は、レース後は完全に「丸ちゃん」だった。突然、「いつもBOATBoy送っていただき、ありがとうございます」なんてお礼をしてきたのだが、なぜ今? 戸惑うこちらに、ニャハハ~と笑った丸ちゃん。たっぷり悔恨を味わって、時間を置いて丸ちゃんに戻った。そんな感じだった。

 あ、吉田拡郎の表情からは、思いがよく読み取れなかったな。たぶんもっとも強い決意で臨んでいたのが吉田拡郎。ファイナルに届かなかった今、何を思うのか。それはまた改めて、本人に聞いてみたい。

 

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●充実!●

 畠山が足色をどう評価しているか、それを知らない段階で書いているのだが、雰囲気節イチはやはり白井英治と太田和美ということになるだろう。機力も同様か?

 太田のたたずまいは、ただただ余裕である。今日は普段以上にプロペラ調整の姿を見かけたのだが、「もう一回、一からやってみようと思って、プロペラを叩き直そうと考えました。最終的な仕上がりは昨日と変わらないですけどね」とのこと。自分のレースができると判断すれば、ノーハンマーでレースに臨むのが普段の太田。逆に、叩き直そうと判断すればとことん調整するのも、きっと普段の太田なのだろう。つまり、やっぱりブレないのだ。

 だから、ひたすら穏やかな空気を発散しており、それはチャレンジカップで見た太田和美である。枠番こそ違うが、明日も同様なのだろうか。あと、「カッコ悪いレースでも、勝てればいいと思っている」というコメントに、この人の勝負への姿勢を感じました。その思いが、カッコいいです。

 

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 白井については、ほとんど語ることはないかも! 3連勝です。パーフェクトに王手です。気分が悪かろうはずがないし、充実感あふれる表情で当たり前だし、ものすごくポジティブなオーラが発散されていなければおかしいのである。

 それにしても、ひとつSGを獲って、やっぱり憑き物から解放されたとしか思えないですな。このままグランプリ完全優勝を成し遂げてしまっても、何ら不思議がない雰囲気である。しかも、かつて感じた「こういうときこそポカをやらないか」という不安を、僕はまったく感じないのである。そんな感情が浮かんでくるかと、自分の心の中を探してみたが、見当たらないのである。これが、完全に本格化した白井英治なのだろう。

 もちろん、結果はわからない。黄金のヘルメットに届きそうで届かなかった悔恨を味わうのかもしれない。だが、今まで見てきたような悲壮すぎる顔は見せないのではないか、という気がする。あるいは、勝ったとしても、若松の夜のような湿っぽさはまったく生じないであろう。

 本物。

 白井英治を見ていて、ふとそんな言葉が浮かんできたぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)