なかなか対照的であった。
10Rを勝ったのは山川美由紀だった。山川といえばスタートを決めてのまくりというイメージだが、最近はまくり差しも多用しており、これが怖い。10Rも見事なまくり差しでの1着だった。
レースを終えて控室に引き上げる際の山川は、ニッコニコ! 会心のレースだったのだろう、ヘルメットの奥の瞳がうれしそうに笑っていた。寄り添っていた向井美鈴も、ニッコニコ! 大先輩がうれしそうにレースを振り返るのを聞きながら、向井にも喜びが伝染したような、そんな笑顔だった。
11Rを勝ったのは長嶋万記だった。長嶋といえば、女子屈指のイン巧者。巧者というよりは、インで強いと言うべきか。豪快な先マイはまくりも差しも寄せ付けず、一時は男子選手を含めても艇界トップの1着率だった時期がある。11Rも逃げ切りである。
長嶋は、ピットに上がってからも笑っていなかった。引き上げる際にも、表情は引き締まったまま。写真がまさにそのときの写真なのだが、何も説明がなく掲載して、それが勝者のレース直後の顔だとすぐに理解できるだろうか。
もちろん喜びはあったはずだし、1号艇で人気に応えられた安堵もあったはず。しかし、それをあらわにはせず、淡々と引き揚げていった長嶋。そういえば、勝者には敗者への気遣いもあると聞いたことがあるなあ。勝ってはしゃいでいる姿は、自分が敗者の立場だったら、いい気分がしないのは当然。はしゃぐのが理解できる勝利もあるだろうが(優勝戦とかね)、予選のイン逃げでの勝利はそういうものではないかもしれない。
勝者の表情にもいろいろある。当たり前のことなんだけど、10Rと11Rはハッキリとそれを見せてくれたわけである。
これもまた対照的であった。
10R、香川素子が2着。先の山川にまくり差しで敗れた。1号艇1コースだ。女子戦はインが決して強くないとはいえ、香川レベルであれば、やはり勝利を計算したい1号艇である。それが計算違いに終わってしまったわけだから、香川の表情はカタかった。憮然としていた、というと言い過ぎかもしれないが、そう書いてしまいたいほど、納得していない様子がありありと伝わってきた。
控室に引き上げる際には、前方を歩いていた山川に駆け寄って、頭を下げている。レース後の挨拶だ。先述したとおり、山川はニッコニコだった。一方の香川は深刻な顔つき。礼儀とはいえ、香川にとってはなかなかつらい場面である。儀式を終えると、香川は山川を追い越している。その足早な歩様が、香川の胸の内をあらわしていたと言ったら、深読みが過ぎるだろうか。
その10Rで、堀之内紀代子が4着に敗れている。堀之内はといえば、やけにおかしそうに笑っていた。岡山勢に囲まれながら、レース道中であったことを報告している様子だったのだが、やはり何か失敗もあっただろう。それをおどけつつ話していたわけである。
言っておくが、負けて良し、と思っていたわけではない。人間、失敗したあとには苦笑いが出ることも多いもので、堀之内の様子もまさにその類いの笑いである。実は、悔しいのである。
ただ、やはり1号艇と6号艇では、その度合いも違うということだろうか。状況も変われば悔しがり方も違う。それを繰り返しながら、選手たちは勝利の美酒に酔えることを常に願って、戦い続けるのである。
さてさて、すでに閑散としつつあった11R前のピット。宇野弥生がスポーツ紙のカメラマンさんに請われて、写真撮影をしていた。求められたポーズは、頑張るぞーと右手を掲げるもの。その場面を目撃した大瀧明日香が、思わず吹き出していた。プププ、弥生ったら、ポーズ決めて写真撮られてるよ~、てな感じ。後輩の様子がおかしかったんでしょうね。
大瀧がその前を通り過ぎようとしたとき、ちょうど撮影が終わった。すると、大瀧は宇野に向かって、ポーズの真似をしてみせた。当然、からかってるわけです(笑)。ちょっとぉ~、何よぉ~! 照れ笑いを浮かべながら、大瀧に殴りかかろうとする弥生さん。大瀧はさらに大笑いしながら、弥生さんの攻撃をかわしておりました。もちろん、宇野の照れ笑いはさらに深くなっていく、というわけであります。
仲良きことは麗しきかな。寒風に身も縮むピットで、ほっこりと温かい光景が見られた次第であります。弥生さん、かわいかったっす。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)