日高逸子はここまでノーハンマーだそうである。エンジンに手応えあれば、ペラには触らない。よく見かけるのは太田和美で、己を信じてレースに臨む彼らしい“調整”である。それをチャレンジカップで見て、日高も感銘を受けたそうだ。前検で好感触だった今節、日高はその手応えを信じて、ペラを叩かずにここまで来た。結果、1着2着である。
ただ、前検時点でのアドバンテージは、第3戦を前にすれば徐々に小さくなってくる。他の選手が上積みをしてきたことで差が縮まるわけだ。日高もそれを感じ取ってはいるようである。それでも自分のレースができるのなら、太田はノーハンマーを貫き通す。これはエンジン節イチ決定戦ではない、レースで勝てばいいのだ、というのが太田の信念だ。では日高は? 今朝やっていたことは、ピストンのカーボン落とし。本体を割ってピストンを取り出し、丁寧に磨いていたのであった。さあ、この後はどうする? ブレることなく、第3戦に臨むだろうか。
そうした泰然自若な姿にも感じ入るわけだが、懸命に動く姿も感動的である。昨日、鎌倉涼は10R発売中、スタート特訓を終えるやピットに戻り、大急ぎで本体を外していた。それを見ていた誰もが驚いた。12Rまで時間はほとんど残されていないのに、このタイミングで本体を外す? もちろん大急ぎの作業となっているが、そのギリギリの行動がその場にいた者を仰天させたのだ。
部品交換ではなく、「いいモーターだからこれまであまり割られてなくて、整備士さんがまだ間に合うだろうと言ってくれたので、思い切って割った」とのことだったが、ようするに点検と洗浄程度の作業とはいえ、それが奏功したと鎌倉は語っていた。そういえば、常滑ダービーでも仲口博崇が超抜1号機を割っていた日があったなあ、と思い出す。いいエンジンはみな臆して手をつけないものだが、実は一度は割ったほうがいいのだと青山登さんが言っていたっけ。
その“調整”を経て、今日の鎌倉はギアケース調整を行なっていた。朝特訓のあとにボートを陸に上げ、この調整に取りかかっていたのだ。トライアル第2戦の快走で好感触を得ながら、さらに万全を期すべく調整に励む。これもまた、戦いの前の戦士のあり方であろう。整備がすべて好転をもたらすとは限らないが、鎌倉の動きと姿勢を見ていると、きっとさらに上向いた状態で11Rに登場するのだろうと思わざるをえない。
そのほかのトライアル組では、小野生奈がやはり本体整備を行なっている。1R発売中に本体を外し始めた小野に、日高が「あっ、やることにしたの?」と声をかけていた。おそらく、本体を触るかどうか熟考し、その件について日高に相談もしていたのだろう。小野は元気いっぱいに「はいっ!」と応えて、整備室へ。初戦失格からの猛烈巻き返しを決めるべく、相棒と向き合っているのだった。あ、その様子を見ていたら、奥のほうの部屋に平山智加もいたな。奥のほうはギアケース調整所なので、おそらくその整備であろう。
あとのトライアル組はペラ室で姿を見ている。やはり最後の勝負に向けて懸命の調整に集中しているのだ。昨日の枠番抽選では泣きまくった三浦永理も、しっかり気持ちを切り替えてペラを叩く。ボートは係留所にあって、今日は水面とペラ室の往復で12Rまでの時間を過ごすことだろう。あと、3連続6号艇の守屋美穂の雰囲気が妙に柔らかく見えたぞ。もちろん作業をする表情は真剣。しかし、装着場に出てくる姿が時折見られ、そこで垣間見える表情だったり様子だったりが、なんともスッキリしているように見受けられたのだ。6号艇から気楽に一発仕掛ければ……大穴を出してもおかしくないと思えたのだが、果たして。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)