BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――負けず嫌いの集団

 

 

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 ボートレーサーになるような人は、たいがい負けず嫌いである。SGに出てくるような人など、とびっきり。性格は人それぞれだろうが、そこはおおむね共通点。レーサーに限らず、勝負の世界で生き抜こうという者は、そうした性質をもっているものである。

 8R後に、めちゃくちゃ脱力したような雰囲気だった桐生順平。最後に竹井奈美をかわして3着に浮上しているのだが、それは「勝った」ことにはならない。ひとつでも着を上げたことや、予選得点率争いで少しは楽になったことに対する安堵はあるだろうが、やはりそれは勝利ではないのだ。5号艇だから、特に大村では厳しい位置ではあった。しかし、そんなことは関係ないのである。

 

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 その桐生に逆転された竹井も、表情をこわばらせていた。SG初出場である。相手は今をときめくニュージェネの、直近SG覇者である。最初から勝てなくたって不思議ではない。むしろ、これを糧として今後につなげる立場であろう。だが、やっぱりそれは関係ない。勝てなかっただけならまだしも、3番手を守り切れなかったのは、やはり悔しい。己の力不足も実感しただろうし、それがまた腹立たしくもあろう。

 9Rを観戦しようとアリーナのベンチにすわっていた瓜生正義に、竹井は駆け寄っている。しゃがみ込み、瓜生の言葉に耳を傾ける竹井。瓜生は優しい表情で、多くの言葉を竹井に投げかけていた。うなずきながら、竹井は瓜生から視線を離さない。大先輩の言葉を、一語も聞き漏らすまいとするかのように。スーパースターの表情を、一瞬たりとも見逃すまいとするかのように。うん、やっぱりこの経験は竹井を強くするだろう。

 

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 9Rで原田幸哉が大敗。4カドという絶好の位置ながら、1マークで後退し、いいところがなかった。ピットに戻ってきた幸哉の目は、ヘルメットの奥で笑っているように見えたが、これは悔し笑いであろう。そんな言葉があるのかどうかは知らないが。

 着替えを終えた幸哉が、次の10Rをアリーナで見ようと歩いていると、太田和美が声をかけている。太田は、9Rの展開について、幸哉に説明していた。幸哉にとっては、やや不運な状況もあったようだ。それを聞いて幸哉は声を張り上げた。「だったら、俺が悪いんじゃないじゃん!」。もちろん笑いながらであったが、そんな幸哉を見て太田は大笑いしていた。がはは、悔しがってる悔しがってる、みたいな感じ?

 その言葉は、自分に対する慰めである。幸哉も自分が失敗したのだという感覚はあるだろう。だが、そう叫ぶことで心が軽くなるなら、叫べばいいのだ。それもまた、負けず嫌いレーサーの特質かもしれない。

 

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 10R、篠崎元志が1号艇を活かせなかった。2コースが凹んだ壁なしインという不運な隊形ではあったが、3番手争いにも敗れて4着というのは、不本意すぎるだろう。と思ったら、ピットに戻ってきた篠崎は、意外にもサバサバした表情なのであった。微笑すら浮かんでいて、背筋もピーンと伸びていた。うつむくような感じがまるで見えなかったのだ。元志って、こんなんだったっけ?

 着替えを終えて、モーター格納作業に取り掛かる篠崎。やがて、整備室内のモニターから10Rのリプレイが流れ始めた。それに見入る篠崎。1マークのシーンはただ見上げていただけだったが、3番手争いに決着がついたあたりで篠崎は作業に戻っている。そのときの顔が、めちゃくちゃ歪んでいた! それでも超イケメンなのが篠崎元志なわけだが、やっぱり悔しかったんじゃないか。あの微笑は、本音を押し隠すものだったのか。それとも……。いずれにしても、元志にちょっとした変化を見たような気がする。

 

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 さて、そうした負けず嫌いの集団であるからこそ、勝ったときの喜びもまた格別なのであろう。

 10R、見事に展開を突いて1着となった山崎智也は、ヘルメットの奥でくんにゃりと目を細めていた。負けず嫌いということは、敗者の思いもよく知っている。だから、決して大騒ぎするようなことはしない智也なのだが、しかしその目の形は「嬉しい!」と物語っていた。先輩の快勝に気を良くしたか、秋山直之も満面の笑みで智也に話しかける。智也はヘルメットをかぶったまま、うんうんとうなずいた。平石和男も背中をポーン。あざーすという声が聞こえてきた。

 勝者の周りはやはり華やかで、弾んでいる。そこに身を置きたくて頑張る、というような一面もあるだろうか。そして、優勝戦とかならともかく、予選などでは敗者への気遣いもそこには生まれている。負けず嫌いの勝負師たちの勝利の後、というのは見ていても気持ちのいいものです。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)