BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――厳しくても諦めない

 

 

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 昨日、平本真之が唐突に「すみませんでした」と話しかけてきた。別に謝られる筋合いはいっこもないのだが、平本に言わせると「BOATBoyで大きく取り上げられながら、オールスターで結果を出せなくてすみません」ということのようだった。BOATBoy6月号は平本が表紙、巻頭インタビューにも登場してもらったわけだが、むしろこちらとしては「BOATBoyに出るとゲンが悪い?」と恐縮してしまうわけで、しかし同様に言ってくれる選手はほかにもいたりする。ピックアップしてもらったのに活躍できなくて恥ずかしい、みたいな思いもあったりするのだろうか。

 で、平本はつづけて「……今節も厳しいですけど」と力なく笑った。たしかに今節は苦戦中。2連対率26%のモーターはさすがに機力劣勢、平本の表情もいまひとつ冴えない。だが、そうは言っても、厳しいままで終わらせるつもりがないのも平本のいいところ。今日は朝から整備室にこもって、本体整備をしていた。平本の整備って、実はよく見かけるのだ。やれることはすべてやり尽くそうという姿勢が徹底している。それが成績に直結しているわけではないだろうが、今年絶好調という流れを引き寄せた原動力のひとつだと思う。果たして立て直すことができたかどうか、8Rに注目だ。

 

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 苦戦していると言えば、濱野谷憲吾。1R6着で、これが今節3本目のシンガリ負けだ。江戸川周年制覇でいい流れをつかんで宮島に乗り込んだかと思われたが、どうにも相棒が動いてくれない。溜め息のひとつも出ようというものだ。予選突破は絶望的である。

 ただ、それでもこのまま終わらせるつもりなどないのだろう。1R後、速攻で次への準備に取り掛かっている。少しも休むことなく装着場にあらわれて、工具をカチャカチャ鳴らしていたのだから、これもまた東都のエースに上り詰めた原動力のひとつなのであろう。関東勢がSG2連続優勝している今年、濱野谷にもその流れに乗ってほしいところ。なにより、群馬&埼玉に東京支部は遅れをとっている場合ではない。残りのレースで意地を見せて、次につなげてほしいぞ。

 

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 2Rで、市川哲也がイン逃げを決めた。今日もまた広島勢の闘志について、書かねばなるまい。なにしろ、ピットに戻って来てもほとんど笑顔を見せなかったのだ。

 ヘルメットをとってあらわれた表情は、むしろ歪んでいたと言っていい。あたかも敗者の表情なのだ。まだ機力に不満あり? 少なくとも、すでに次に向けて気持ちを切り替えていたのは明らかだ。安堵の思いも少しはあったと思うが、まったく歓喜をあらわさない市川に、出迎えた辻栄蔵や山口剛も、粛々とエンジン吊りをするのみ、であった。作業が終わって、辻が話しかけたときにはわずかに笑みをのぞかせたが、柔らかい表情はそれだけ。力強い足取りで、着替えに向かい、後半レースの準備を始めている。

 3Rで前本泰和が残念ながらフライングを切ってしまったが、それも闘志が少しはみ出ただけだろう。やはり今節は広島勢から目が離せない。まだまだここに記す出来事が起こるだろう。

 

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 その2R、2番手争いがアツかった。岡崎恭裕があの手この手で菊地孝平に迫り、最後は逆転したのだ。これがまた、技ありというか、してやったりというか、岡崎の戦略が見事にハマったものだった。道中、岡崎は2度切り返しに出て、いずれも菊地は捌いている。最終バック、岡崎はさらに切り返しを狙うとばかりに菊地の内に艇を向け、菊地もおそらくは再度の切り返しを警戒したはずで、それを抑え込もうとしている。その瞬間、岡崎は素早く外に艇を持ち出した。そして渾身の差し一発! これが見事に菊地のふところを捉え、逆転に成功したわけだ。

 まさに駆け引きの粋が見えた一戦だったわけだが、やはりレース後の岡崎の表情には充実感が見えた。篠崎元志とレースを振り返る顔つきも、なんか久しぶりに見たなあ、と思えるほど明るかった。まあ、もともと感情をあらわにするタイプではないから、そこで弾けるような笑顔を見せるわけでもないけれども、“レース”をとことんし尽くしたうえでの逆転劇は、手応えを感じるものだったはずだ。

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 で、これは菊地のほうは悔しいわなあ。赤岩善生とけっこう大声でレースを振り返っていたが、自然と声を張ってしまうのも理解できる。で、カポック脱ぎ場で肩を並べた二人は、まったく会話を交わしていなかった。あの競り合い、たとえばお互いの足色を確かめるために語り合って不思議ではない場面なんだけど。深読みかもしれないが、そこに菊地の意地を見たような気がした。それはまさしく勝負師の姿だ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)