BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――トップクラスの姿勢!

 

 

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 グラチャンで、辻栄蔵の「ギリペラ」を書いた。展示ピットにボートを移動するギリギリまで、プロペラ調整に励むという辻の基本姿勢。優勝戦でも同様であり、だからペラ調整室は最後、辻がぽつんと一人、ペラと向き合うという光景になっていた。13年ぶりの地元SGだったから? いやいや、これが辻のルーティン。もちろん地元SGへの強い思いはあったはずだが、レースへの準備をいつも通りにやり尽くしたにすぎない。

 そして、今日もまた辻はギリギリボーイズだった。今日の辻は1R1回乗りだから、午後の時間帯にギリペラはありえない。今日は「ギリ試」。いちばん遅くまで試運転をしていたのが辻だ。試運転をしていたということは、ペラ調整もセットである。ペラを叩き、水面に飛び出し、戻ってまたペラを叩き、また水面に飛び出す。これをまさにギリギリまで続けていたのである。勤勉と言ってしまうと少し軽すぎる気がする。だが、生真面目に己の仕事と向き合っていることは間違いない。辻栄蔵の活躍を裏打ちしているのは、間違いなくこの姿勢だ。地元SGだろうがそうでなかろうが変わることのない、その信念にあるのである。

 

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 もっとも、SGで戦う選手はおおむね、辻に類する姿勢をもっているものである。表現されるかたちは変わっても、飽くことなく勝利とパワーアップを追求するのは、トップに共通するものだろう。昨日と今日書いた、市川哲也のとことん整備もそのあらわれだ。あるいは、フライングを切ってしまっても、調整の手を緩めることのない平山智加もそうした精神性をもったひとりだろう。もちろん、杉山正樹もだ。

 

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 だから、地元SGうんぬんと言うと、何か特別なことをしているようにも思えるが、もちろん気合はいつも以上ではあっても、やるべきことはいつもと変わらないわけである。10R、中島孝平は6着。さすがにかなり厳しい状況に追い込まれてしまったと言うべきか。残りのレースをすべて勝っても得点率6・00には届かない。ボーダーがどこで収まるかはわからないが、現時点では圧倒的に不利な状況であるのは間違いない。レース後の中島は、やはり淡々としたふるまいではあったものの、顔つきには落胆があらわれているように見えた。先入観はもちろんあるけど、でもたぶん僕の見立ては間違っていない。

 それでももちろん、中島は手を緩めるわけがないのである。着替えを終えたあと、中島はすぐにギアケースを外して、整備室奥の調整所に向かっている。投げ出す気持ちなど微塵もない。少しでも上向かせようと、力を尽くすのだ。明日は1号艇。まずはここで快勝を。明日の午前中もそのために奮闘する中島の姿を見ることになるだろう。

 

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 それにしても、山口達也、すげぇな。

 今日の5Rはコンマ39のスタートタイミング。グラチャンで節間F2本の男がこのスタートで、「そりゃそうだよな」と笑って許すのが普通だと思う。このレースでは6コースもコンマ32だし、トップスタートがコンマ22だし、まあよくあるスリット隊形でもあろう。

 11Rが終わり、掲示板にスリット写真が貼り出される。覗き込んだ市川哲也が呆れたように笑った。続いて覗いた石渡鉄兵が「あいつ、すっげぇな!」と目を丸くする。どう見たって、山口の舳先はコンマ05より入ったところにあったのだ(コンマ03でした)。

 誰もが山口のしでかしたことを知っている。そのペナルティについても知っている。もう1本切ったらどうなるかも、まったく他人事でなく、知っている。そりゃあ笑うし、驚くよね。そんな男が、6コースからコンマ03のトップスタートを切っているのだから。

 

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 5分ほど経ったあと、吉田拡郎がスリット写真の前に立った。その瞬間、ガックリ(笑)。吹き出しをつけるとしたら、「あいつ、アホか……」。この人もかつてはF禍に苦しんだことがあったし、スタートが速いことでは定評がある選手。そして同支部の先輩。山口をおおいに心配しているだろうし、絶対にもう切ってほしくないと思っているし、もしかしたら「慎重にな」くらいは言っているかもしれない。なのに達也はコンマ03。先輩としてはアホかとも言いたくなるのだろう。

 そこに山本寛久もあらわれて、拡郎は写真を見るように山本に告げる。見た瞬間、山本は思い切り苦笑い。拡郎も困ったような笑みを浮かべていた。そのあとの控室では、達也を中心に拡郎やカンキューや、もしかしたら茅原も、大騒ぎしていただろうなあ。

 

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 しかし、山口達也よ、一ファンとして言わせてもらえば、あんたはエライ! まったく怯まずに勝負に出る姿勢は、ファンから見れば最高に信頼できるものである。もちろん、もう切っちゃダメだよ。早いと思ったら、しっかり放らなければならない、特に今は。それでも、僕は山口の姿勢を称えたい。そうした勝負根性が山口をSGレーサーに押し上げたのだろうし、それこそがファンには光り輝いて見えるものだからだ。ま、繰り返し言いますが、F3は厳禁で!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)