1R展示後の水面には、瓜生正義の姿があった。ドリーム組の動きとしては、これはかなり早い部類に入る。12R1回乗りの選手は、動き出しが遅くて当たり前。今日は気温が低いので話は別だろうが、ナイターの場合は真昼間と夜では気温がまるで違う。あえて時間帯を遅らせて始動することだってあるわけだ。だから、瓜生の動きは目立つ。
昨日は好感触を口にしていた瓜生。開会式後のドリーム戦インタビューでも、ポジティブな言葉を並べていた。なのに、1R発売中から試運転? 2R発売中にはいったん陸に上げて、ギアケース調整を始めていて、これは予定通りの行動か。大きく手を入れる部分がないからこそ、着々と自分のペースで調整を進める。そんな雰囲気に見えるのだが、果たして。
もう一人、早くにボートを下したのは白井英治だった。ドリーム戦インタビューのあとは、ペラ室にこもって調整。没頭して作業をしており、なかなか一段落つく気配がないため、地上波中継のインタビュアーであるサッカー元日本代表の武田修宏さんが待ちぼうけを喰らっていたくらいである。
1Rのエンジン吊りと同時にようやく一息つき、インタビューを終えた白井は、そのまま水面に向かっている。瓜生と行き違いで、水面に出て行ったのだ。試運転をすぐに始めたわけではなく、係留所での調整作業に次は没頭する様子だったが、いずれにしろ水上作業に移っているのだからこちらも早い。この段階で水面に出たのは、よく考えれば、昨日の会見で強気なコメントを並べていた二人。ここに意味があるかもしれない。
他のドリーム組では、池田浩二が装着作業。今日は本体を割ると宣言していたのだが、まずはそのまま水面に出て、今日の手応えを確認してからになるだろうか。引いたモーターは評判機だが、前節最終日の転覆を池田はとにかく気にしていた。まずはその部分に入念に手をつけていこうとしているのは間違いない。万全にもっていくことができれば、そもそも地の利があることを忘れてはならないだろう。
森高一真は、2R発売中に本体を割った。「たいしたことないわ」が前検の手応えだけに、いきなり大きな仕事に取りかかった格好だ。森高の本体整備はちっとも珍しくないというか、毎節のように見かける光景であり、たっぷりと時間がある今日のうちにまずやっておこうということだろう。一方、山崎智也と松井繁はまだまだ本格的な始動とはなっていない。山崎は岡崎恭裕や中島孝平と話し込んでいるのを見たっきりで、松井にいたっては姿も見られなかった。ペラ室とかじっとりと覗き込んだのだが見つからなかったのだから、早い時間帯にはまだ動いていないと言い切っておこう。
さて、今日は強い追い風が吹き荒れる水面となっている。台風の影響でしょうかね。1Rから安定板が装着されており、レースをご覧になった方はおわかりの通り、特に1マークが本当に乗りにくそうですね。イン、握った選手は往々にして流れ、レバーを落としても操縦が難しい水面である。
1R、たまたま智也、岡崎の近くでモニター観戦していたのだが、報道陣が「おー、おー、おー」とか騒いでいるなか、智也も岡崎も何事もなさそうにレースを見つめるのみだった。それが選手、なのですかね。彼らも今日、この水面を走るわけで、他人事ではなく、我がこととして攻略法などを考えながら見ていたのかしらん。まったく動じる雰囲気のない二人を左側面に感じながら、妙に感心したのであった。
智也がおっ!と声をあげたのは1マークの一瞬。後輩の毒島誠と、同期の角谷健吾が同時に抜け出した瞬間だ。両者の競り合いは、なかなか複雑な部分もあるんでしょうか。どっちに肩入れしているのかは……ちょっとわかりませんでした。
勝ったのは角谷。2マーク先マイの毒島を差し切っている(毒島は3着まで後退)。ピットに戻ってきた直後は淡々とした表情だったが、エンジン吊りで仲間に声をかけられると、ちょっと複雑な笑顔を見せていた。勝ったのは嬉しい、でも水面がとんでもなかった! 逆転はツイていたとも言えるし、荒れ水面をうまく乗り切ったとも言える。レース自体が複雑な流れ、複雑な結果だったわけだ。
しかし、何はともあれ、久々のSGで初戦1着! 誰もが手こずる水面を乗りこなしたのだから、堂々と胸を張っていいと思うぞ。東京のもう一人のケンゴ、今節の台風の目になってもらおう!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)