BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――仲良きことは、時に面白きかな

 

 

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 ボートレースはセパレートコースを走るわけではないから、展開のもつれはいつだって起こる。まして、水上で、2つのターンマークを180度旋回するという競技だから、それぞれの航跡が交錯するのはむしろ必然。それがボートレースの醍醐味であるし、選手は常に体を張って闘っているのである。

 昨日の12Rの件も、だからみな他人事ではないし、あそこまで激しくなくとも、ちょっとした出来事は普通にあるものだと選手たちだって自覚している。だから、それが目に余るような類いのものでない限り、レース後はノーサイド、である。

 

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 たとえば10R。1周2マークで平本真之が毒島誠を張り飛ばすかたちとなった。形としては、2番手争いである。ただし、これで毒島が着を落とした。二人の競り合いの間隙を突いて、下條雄太郎が浮上したのだ。僕はこれがボートレースの展開の妙のひとつだと思っているのだが、毒島としてはたまらない。結果的に、毒島は平本を追いかけて追いかけて、最後はツケマイで沈めて3着逆転となっているのだが、当事者としては、あれがなければ2着、という思いがあってもおかしくない。

 ピットに戻って、平本はすぐに毒島に駆け寄って、頭を下げている。しかし毒島は、まったく気にしていない様子で、右手をひらひらと振った。まあ、最後は逆転してるからというのもあるのだろうが、これもまたボートレースなのだと毒島も理解しているだろう。そして毒島は、平尾崇典に歩み寄って頭を下げている。平尾は2コースからツケマイに出た。これを毒島は張るようなかたちで、防御したのである。まくりが来たらインは張る。ボートレースのセオリーだろう。それでも、毒島は平尾を飛ばしたかたちなので、頭を下げた。平尾は当然張られるのを覚悟で行ってるのだから、柔らかな表情で首を振って、毒島をねぎらっている。

 

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 で、毒島vs平尾の戦いによって、瓜生正義には絶好の展開となっている。平尾は瓜生に声をかけて、すぐ差しに行けたかどうかと気にしていた。もし瓜生が握っていこうとしていたら、平尾の奇襲は瓜生を惑わせていただろう。もちろん、平尾はまず毒島を潰すことを考えてまくりに行っており、さらには瓜生を封じようという思いもあったかもしれない。だから、本来は気に掛ける必要はまったくないわけだが、さっきも言った通り、戦い終わればノーサイド。そうした気遣いも生まれてくるわけである。瓜生としては、うまく展開を突けたわけだから、平尾に返した言葉は「ありがとね」だ。うん、あれはたしかに瓜生に流れが向いていたな。

 こうしたレース後があるから、むしろ水面では徹底的にガチンコで戦えるのではないかと僕は踏んでいる。レース中に考えるのは己がいかに勝つか、のみ。繰り返しになるが、そこではいろんなことが起こりうるのである。接触だって辞さないというところもあるだろう。実際に接触すれば、レース後にはきちんと礼儀を尽くす。そうした空気のなかで、彼らは本気でぶつかり合うわけだ。

 

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 それにしても、平本は悔しいですよね。最後は毒島のツケマイにどかーんと沈められているのだ。しかも、不良航法をとられてしまった。ボートレースの魅力とルールが噛み合ってないよね……というのはともかくとして、平本にとっては痛恨すぎるレースである。装着場にあらわれた平本は、

「あぁぁぁぁっ!」

 と咆哮。悔しさを隠そうとはしていなかった。で、これを聞かれた相手が悪かった。

「どうしたんすか、あーーーっとか言っちゃって。次はいーーーーーーっですか?」

 いうまでもなく、西山貴浩である。でも、これが平本を癒したかもしれない。その後は二人で雑用を仲良くこなしていたのでありました。

 

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 11Rは峰竜太がカドまくり快勝! ピットに戻った峰は、ニッコニコである。いや、ピットに戻る前からニッコニコだったな。ボートリフトの手前でスローダウンしたのでカメラを構えたら、ファインダーのなかで峰の目がすでに細かった。気持ちのいい勝利だったのである。

 そんな峰を太田和美が出迎える。池上カメラマンによると、ドライバーを投げつける素振りを見せたとか。ドライバーとはネジ回しですね。モーターをボートから外すために必要なのだが、使用するのはプラスドライバー。先、尖ってます(笑)。気持ちいい勝ち方しやがって、この野郎! 太田の手荒い祝福である。あ、実際にはもちろん投げつけてません。

 陸に上がると、峰は太田のもとに歩み寄って笑顔を向けている。すると太田は言った。

 

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「明日は俺がまくるで!」

 前夜版を見ると、うがっ、10Rで1号艇・峰竜太、2号艇・太田和美! 太田は笑いながらそれを説明すると、峰は天を仰ぎながら笑っていた。いや~、これ、牽制球だよな~。二人の仲が良いからこそ成立する牽制球であり、しかしそこにはしっかり本音というか策略というか腹の探り合いが込められている。峰はそれを聞いて何を思うだろうか。そして太田はどんな戦い方を脳裏に叩き込んでレースに臨むか。いやいやいや~、10R、めちゃくちゃ楽しみになったな~。

 こうした駆け引きもまた、ボートレースの面白さ! ま、天然竜太は何も気にしていないかもしれないし、太田も単純に峰とじゃれてただけかもしれないですけどね。でも、僕は明日の10R真っ向対決をとことん楽しみます。ボートレースでは全員が敵同士。それは間違いないし、選手同士が仲良くする必要はまったくない。でも時に、仲良きことが面白きことを生み出すこともあると、僕は思うのであります。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)