お見事イン逃げ! 1R、坪井康晴が逃げ切った。といっても、5号艇である。スタート展示は2コースだったが、本番は内の様子を見ながらスーッと噴かしてインに進入。1号艇・吉田弘文のピット離れがもうひとつというスパイスこそあったが、地元での勝負駆けに魂のイン獲りを見せて、そして逃げ切ったわけだ。
レース後、お見事!と声をかけると、坪井は淡々と、丁寧に言葉を並べる。決して高揚することなく、その真意を語る。それは「まだ12Rが残っているから」と兜の緒を締めているとかではなく(もちろんそのため気を緩めてはいないが)、しっかり語って伝えようとする坪井らしさ。いつもの坪井である。あ、最初から前付けは考えていたそうです。スタート展示で勘をつかめたので、吉田がP離れ遅れて回り込んできたら、それを入れずに内に入ろうと決めていたとのこと。そうした流れでのイン奪取だったようだ。後半は6号艇。坪井は6コースも得意なだけに、ここはどうする? 1Rを見ただけに、その戦略が楽しみになった。
2Rの勝負駆けは菊地孝平だ。こちらも6号艇から3コースに動いた。1マークはカドに引いた川北浩貴のまくりを浴びてしまったが、道中は意地の走りで着争いに絡んできている。ただ、展開がもつれたのが不運だった。競っていた吉田拡郎が失速したことで、スピードを落とさねばならなかったのだ。結果4着。それでも得点率6・40だが、何も予選突破だけを狙っていたわけではないだろう。少しでも好枠での準優出を狙っての前付け、道中。だから当然、レース後は顔がゆがむのである。
吉田から頭を下げられたときはサバサバと返していた。エンジン吊りで仲間とともにいるときには、ただ表情を硬くしていただけだった。しかし、一人になって天を仰いだとき、思い切り眉間にシワを寄せた。苛立ちを表情に乗せたのだ。このレースに込めていた思いが、そこには確実にあらわれていた。
序盤から勝負駆けが熱い! 地元勢が外枠にいたこともあって、いきなり勝負駆けらしい戦い、表情が見られた朝のピットだ。今日一日、こうした闘志がピットに、水面に渦巻くことだろう。
整備室を覗き込んだら、峰竜太がボートを持ち込み、本体を外していた。といっても、調整しているのは本体ではなくキャリーボディーのほう。本体との接地部分を丁寧に磨いたりしていた。峰に聞くと、排気部分の改善のために、マフラーを調整したとのこと。キャリーボディーの交換には至っていないという。で、珍しいのは、峰竜太が整備室にいること自体、なのだ。峰を整備室で見かけるとするなら、ギアケース調整かゲージ擦りか、あるいはモーター格納作業か、といったところで、基本的にはペラを煮詰めていくのが峰の流儀である。積み重ねてきた技術には自信を持っているし、低勝率のモーターをペラで一変させたことも何度もある。それだけに、本体整備ではなくとも、明らかに特別な動きをしていると言っていいだろう。
「勝負ですからね!」
そう言ってニッコリ笑った峰。このあと、まだ別の動きがあったりして!?(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)