BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@シリーズ――王者がいる優勝戦

 

 

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 松井繁がシリーズを走る――それが決まった2日目、また“初日”である3日目はかなり違和感を覚えたものだったが、トライアルの興奮とシリーズの奮闘を見守っていると、さすがに慣れてくるもの。「松井はシリーズでもモチベーションが変わったふうはないね」なんて声は報道陣の間からも聞こえてきていて、たしかにそんな雰囲気でここまで走っているように見えた。最終日まで全力で頑張る――松井が開会式で口にするその言葉は、舞台が違っても変わらないのだと改めて思わされた次第だ。

 ただ、シリーズの優出会見にあらわれた松井を見て、僕はまたひどく違和感を覚えた。というより、松井がシリーズを走るという衝撃が、改めてよみがえってきた、というほうが正確か。松井がグランプリではなく、シリーズのほうの会見に登場し、「いつも通り頑張る」と口にしている。それはやはり事件のように思えてならなかったのだ。

「(シリーズを)優勝するつもりで走ってましたよ。得点トップを目指してね」

 まだ僕のなかではどこか整理がつかない感じはあるのだが、しかしその言葉を聞いて、シリーズでも王者の矜持を抱いて走っているのだと、また確信した。なお、トライアル1st組のシリーズ優出は松井のみだ。

 

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 シリーズ準優で最大の見せ場を作ったのは、西山貴浩だ! 2号艇で登場の西山は、1号艇・今垣光太郎がゆったりと進入する隙を突いてイン獲り! そして逃げ切り!「格下の僕が勝つには、油断を突くしかないっすから」なんて謙遜するが、その勝負師根性が素晴らしい。今垣を慮ってか、レース後にはさすがにいつものように弾けたりはしなかったが、それでも西山の“快挙”を仲間が祝福して、その中心で西山は笑顔を見せていた。山口剛は「ナイスファイト!」と称えていたぞ。

 会見では、真面目なコメントといつものニッシーニャ劇場が入り交じるもの。そんななかで、僕が本音と見たのはこれだ。

「池永くんがGⅠ獲って、それでここに来る前に原田富士男さんたちとお酒をがっつり飲んだんですけど、富士男さんに『次はお前の番だ』って言われたんですよね」

 今年は師匠の川上剛も記念初制覇を果たしている。たしかに、次は西山の番だ。僕は原田富士男のその言葉が、西山に見えない力を与えているのではないかと思う。明日ももちろん、その闘志を、いや今日以上の闘志を携えて、戦いに臨むであろう。

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 それにしても、グランプリに出ていておかしくない実力者がシリーズ優勝戦に顔を並べたものだ。昨年につづき優出の瓜生正義。07年のグランプリ覇者・吉川元浩。08年のグランプリ覇者・井口佳典。この強烈なメンバーがしっかりと足を仕上げ、力を発揮して優勝戦に臨むこととなった。シリーズ優勝戦も実に濃い一戦である。1マークで逃げながら、2マークでまさかのオーバーターンで2着に後退した瓜生正義は、さすがに痛恨の表情を見せていたが、瓜生を抜いた吉川、苦労を重ねた今年の最後にシリーズながら優出を果たした井口は、ともに表情が明るかった。井口は明日は6号艇、伸び一本に仕上げるそうだぞ! 井口は6コースが決して苦手ではない。一発があってもまったくおかしくはない。

 

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 で、そういうメンバーのなかでポールポジションにすわるのが、SG初優出の長田頼宗である。記者会見にあらわれた長田は、まず室内をぐるっと見渡した。

「記者さんが多いですね(笑)」

 そう、長田よ、これがSG優勝戦なのだ! 明日、準優のようにきっちり先に回って押し切れば、明日もまた同じ風景を見ることになる。そうでなくとも、これは第一歩。今後は何度も何度も、たくさんの報道陣の前に一人、座らなければならないだろう。

「今日からプレッシャーはありました。明日もあると思いますが、それを楽しんでいきたいですね」

 SG優勝戦1号艇の重圧に対峙する覚悟があるなら、明日は力を出せる状態でレースに臨めるだろう。12Rのスーパーバトルの前に、ニューヒーローが誕生するか。シリーズ優勝戦の最大の焦点は、やはりこれだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)