BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――雨の蒲郡

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165448j:plain

 9Rの2番手争いが熱かった。

 菊地孝平が逃げ切って独走態勢に入ったその後ろ、残り5艇が団子状態になったのだ。誰が2番手を獲り切ってもおかしくなく、実際ターンマークごとに様相が変わった。主導権の奪い合い、展開の読み合い、スキの突き合い。実に見応えのある番手の取り合いだ。見ているだけで、めちゃくちゃ興奮しますよね。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165503j:plain

 選手も同様のようだった。整備室のモニターで観戦していた選手は10~15人ほどだったか。プロペラ調整室にモニターがないので、ペラ調整中の選手が整備室に移動するのだ。1周2マークを回ったあとに団子状態になった瞬間にまず歓声が上がり、ターンマークごとにわぁとかおぉとかの声が聞こえてくる。ちらり整備室を覗き込むと、王者もニコニコとモニターを見上げている。田村隆信も実に楽しそうだ。選手の顔がどれもこれもほころんでおり、走っている選手たちが何を見ているのかを想像できる分だけ、さらに楽しいレース観戦になるのだろう。ま、こっちは舟券持ってる分だけ、さらにエキサイティングですけどね。あ、池田浩二のアタマから買ってたから、そういう興奮は味わえなかったけれども。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165523j:plain

 で、激闘を終えてピットに戻ってきた5人は、装着場では特に言葉を交わすことなく控室に引き上げていったのだった。もっと笑い合うなり、振り返り合うなりというシーンを想像したのだが、ちょいと拍子抜けでもあった。2番手を獲り切った川﨑智幸が「疲れたぁ~」とか言って笑うんじゃないかと予想していたんですけどね。白井英治がエンジン吊りが終わるや、顔をしかめているのが表情の変化らしい変化。2番手もある展開で5着だから、「あそこでこうしていたら」的な思いはあって当然だ。先頭争いでない忸怩も含めてさまざまな思いが5人にはあるだろうけど、見る者を楽しませたあなたたちはプロフェッショナルである! 結果に関係なく、胸を張るべきだと僕は思います!

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165535j:plain

 さてさて、夕刻から雨が降り出した蒲郡。なかなかの本降りで、傘を持たずにピットに向かってしまった僕は、びしょ濡れで辿り着く羽目になってしまった。篠崎仁志が空を見上げて、顔を歪める。そんな顔をしてもイケメンなんてズルいぞ。ほんっと、この兄弟は……てなことはともかく、仁志に会釈を返してピットに足を踏み入れたら、これがまあ静かなこと。特に終盤の時間帯にもなれば当たり前の光景ではあるのだが、この天候では早くから選手の気配が薄くなるのも道理というものか。プロペラ調整室の人口密度も決して高くはなく、最後の調整に取り組んでいる終盤レース出走組の姿が多かった。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165551j:plain

 整備室も閑散としていたが、原田篤志がひとり、本体整備に精を出していた。ここまでゴンロクを並べてしまっている成績を見てもわかるとおり、足的にはかなり厳しいと見える原田。予選前半を終えて、なんとか活路を見出すべく、本体に手をつけたわけだ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165605j:plain

 一方、たとえば10R発売中にスタート練習が行なわれた12R出走組は、もちろんそのときは水面に出ているし、終われば係留所にボートをつけているわけだが、そんななかに1艇だけ「試」のプレートをつけたボートがあって、それが山田雄太。山田もゴンロクを並べてしまっていて、パワーアップをはかる必要があるわけで、だから本降りの雨を厭うことなく試運転を続けていたのだ。何周か走り、いったん切り上げるとペラを外してペラ室へダッシュ。調整をして、今度は係留所にダッシュして、また水面に出ていく。いや~、雨のなか、本当にお疲れ様です! 毎度のことだが、こういう姿を見ると、なんとか努力が報われてほしいと願ってしまう。山田も原田も昨年のダービーで大ブレイクを果たした二人。SGの厳しさを味わいつつ、さらに奮闘してくれることを期待しよう。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221165617j:plain

 二人のように調整に動きまくっているばかりが、レースへの準備というわけではない。原田幸哉が雨が叩きつける水面を見つめながら、考え込んでいた。ボートは装着場にあり、それが10R発売中。12Rで戦うメンバーは、雨の中でスタート練習に臨んでいたときだ。まさか雨に濡れるのを避けたわけではあるまい。それから原田の思索は長い時間に及んでいるのだ。原田といえば、ひとつルーティンがある。ボート乗艇前の長い敬礼だ。出走前に選手たちは1号艇の号令のもと、敬礼をする。すぐにボートに乗り込む者もいれば、柏手を打ち、2~3度その場で軽く跳ね、また柏手を打って乗り込む王者もいる(僕は勝手に王者の舞と呼んでいる)。原田は、号令を受けて敬礼をすると、その態勢のまましばし固まる。そうすることで精神統一をはかっているのだ。これが長ければ長いほど、集中するのに時間がかかってしまうときなのだとか。いずれにしても原田は、モーターやペラの調子と同じくらい、戦略も含めての“内面”を重視しているのである。

 原田は話しかければ気さくに応えてくれるし、時には長い会話になったりもするのだが、今日の原田にはさすがに話しかけることはできなかった。残念ながら12Rの結果にその時間は結実させられなかったけれども、“何も動かないでいること”が大事な準備であるという者も確実にいるのである。1着2着と順調に序盤を乗り切りながら、ここで一頓挫してしまった原田。明日はどんな“戦闘準備”の姿を見せてくれるか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)