11Ｒ、白井英治は不良航法をとられている。１マークで差しに入ろうとした瞬間に前の引き波に乗って失速し、最内差しを狙って舳先を向けていた吉田拡郎と接触してしまった。両者とも大きく後退してしまっているが、ターンマークにも接触してしまった吉田拡郎がより後退が大きく６着。内側艇保護違反で、白井の反則がジャッジされたという次第だ。
レース後、白井は吉田に頭を下げて、その場面について釈明をしていた。吉田は、状況を呑み込めているのだろう。むしろ白井を気遣うように、「ぜんぜん、ぜんぜん」と返していた。白井もキャビったときに右にハンドルを切って接触を避けようとしていたようだし、それが不測の事態であったことは吉田にも伝わっている。お互い状況がわかるだけに、遺恨など残りようもない。とにかく、吉田も白井も不運だったということだ。
勝ったのは瓜生正義。昨日のドリームは明らかに機力劣勢と映ったが、今日はある程度は立て直して、きっちり逃げ切った。２コースが行き足いい濱野谷憲吾だったが、濱野谷が足落ちしたのか、瓜生がやはり上向いたのか、スリット後は伸びられるようなところはなかった。瓜生といえば、とにかく素晴らしい人柄。勝ったあとは、相手が先輩だろうが後輩だろうが、エンジン吊りの間に全選手のもとに歩み寄って頭を下げる。11Ｒで先輩は濱野谷のみなのだが、もっとも登番が若い吉田に対しても濱野谷に対するのと同じように礼を尽くす。
２着の齊藤仁もまた同様。激戦を物語るように、顔を紅潮させ、汗だくでピットに戻ってきている齊藤は、やはりそれぞれの対戦相手に対して頭を下げていく。11Ｒは、まさに人格者ワンツー！ ちなみに、３着の井口佳典もレース後は相手に深々と腰を折っているシーンをよく見かけており、礼儀正しい男たちワンツースリーということもできるかもしれない。
ところで、ＢＯＡＴＢｏｙの西山貴浩インタビューの際、「池田浩二は強くて面白い」という話になった。ＳＧ何個も獲ってるのに、自分たちと同じ目線で冗談ばっかり言ってる、と。これ、イメージと少しばかりギャップがあるのではないだろうか。開会式での西山と池田は対照的で、パフォーマンスで沸かす西山に、端的に決意をさらっと述べるだけの池田と、まるでキャラが違う。ＪＬＣの勝利者インタビューなどでも同様だし、“冗談ばっかり言ってる”池田が表にあらわれるシーンは見かけた記憶がない。むしろクールというのが池田のイメージではあるまいか。しかし、ピットでは池田の満面の笑みを頻繁に見る。他の選手とじゃれ合うシーンも珍しくない。西山の言葉には合点がいくのだ。
今日の池田は、10Ｒ発売中まで試運転に明け暮れていた。他にも試運転組はいたが、ボートを上げたのはいちばん遅かったのではないか。そのエンジン吊りを手伝ったのは、池永太と下條雄一郎。たまたま装着場にいた二人が、平本真之とともに池田のもとに駆け付けたのだ。池田は、支部のまったく違う後輩に対してもまるで壁を作らない。サァンキュッ！とか言いながら、二人に笑顔を向けるのだ。そうかと思うと、11Ｒのエンジン吊りでは守田俊介をイジっていた。一人ぽつんとボートが揚がってくるのを待っていた守田に近づき、ガシッと肩を抱いて言葉を投げかけていたのだ。守田も池田も大笑い。池田は先輩に対しても、壁を作ることなく接するわけである。まあ、全員に対してということではないだろうが、たしかに池田はどちらかというと西山タイプかもしれない。それでいてあの強さなのだから、西山の言う通り、感心するしかないのである。
で、10Ｒ発売中の試運転をしていたのは他に、市橋卓士と中野次郎である。中野が１Ｒ１回乗り、市橋が２Ｒ１回乗り。まだ陽が高い時間帯からとっぷりと陽が落ちた後まで、二人は調整と試運転に没頭していたわけである。中野はやっぱりまだまだ満足していないんですね。
今節の徳島支部には、来年の鳴門グラチャン勝負駆け、がある。もちろん今節だけが勝負駆けではないが、現時点で賞金ランク27位でチャレンジや（最低でも）シリーズに出られる可能性がある田村隆信に対して、ダービー不出場で賞金ランク84位の市橋にとってこのメモリアルは意味が大きい。優出すれば一発で鳴門グラチャン行きなのだし、そこまで行かずとも予選得点を稼いで選考順位を少しでも上げておきたいところなのだ（現時点ではボーダーより下）。初日６号艇３着で上々の発進ながら、今日は６着を獲ってしまった市橋にとって、予選の後半戦はまさに大事な勝負どころ。遅くまでの懸命な努力にも、そうした強い決意を感じたくなるというものだ。試運転を終えたあとは、中野と情報交換をする姿も。そういえば、86期はまだタイトルホルダーを出していない。柳沢一も含めて、ぜひとも狙ってほしいところだ。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
