BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――悔しい!

 

 

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 ボーダーラインのゆくえが微妙だった。9R終了時点で、6・00の3人が19~21位。6・00ではかなり寒い状況だったのだ。19位、池永太。20位、茅原悠紀。21位、篠崎仁志。池永と茅原は、1着2着という厳しいハードルをクリアして6・00に辿り着いたと思ったら、準優圏内から外れるという状況。むずむずする時間を送らねばならないのは、気の毒だった。

 

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 10Rが終わり、池永太が18位に上がり、準優は当確となった。10R終了後といえば、帰宿バスの1便が出発する。茅原悠紀はこれに乗る手はずとなっており、次点のままピットを去らねばならなかった。ただし、ひとつ問題がある。もし茅原が18位以内に浮上した場合、JLCの展望インタビューから茅原が欠落するのだ。どうしたか。茅原は次点のまま、カメラの前に立った。「準優に残ったていで話せばいいんですね」と苦笑いしながら、本当はまだ次点で、ということはこの収録分はお蔵入りする可能性もあるのに、茅原は準優への決意を語っていた。「準優進出おめでとうございます」と振らねばならない青山登さんもやりにくそうだが、茅原もまた非常にやりにくかっただろう。二人のやり取りを見ていたら頭が下がった。インタビュー後、「もし乗れなくっても頑張りますから!」と爽やかに去っていった茅原の背中に心のなかで拍手を送った次第だ。

 

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 11Rの結果を受けて、茅原は18位滑り込み! 今度こそ本当におめでとう! 一方、6・00であっても届かなかったのが、篠崎仁志だ。結果を馴染みの記者さんに耳打ちされ、仁志ははっきりと落胆の色を見せていた。そして、絞り出すように「まあ、こればっかりはしゃあないっす」とぼそり。予選順位は他の51選手との相対的なもの。自分はボーダーと言われる6・00に到達しても、あとは他の選手次第なのだ。だから、こればっかりはしゃあない、ということになる。間近にいた僕とすれ違う際にも、仁志は「こればっかりは……」と繰り返した。自分にそう言い聞かせるしかない、という風情は、他人事ながらこちらもつらい。

 

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 19位以下から2人が準優圏内に浮上したということは、10Rと11Rで圏内から落ちた選手も2人いるということだ。一人は、10R5着の山崎智也。1周目バックでは2番手争いもありそうなポジションだっただけに、大きく流れた2マークが痛い。3着に粘っていれば18位以内だったが、5着では予選レースでも大きく後退となる。

 エンジン吊りの最中、終わって他選手と挨拶を交わす際、智也は微笑んでいた。前身のSports@Niftyも含めて長らくご覧いただいている方なら、僕が何度も「智也は敗れたときによく笑う」と書いてきたことをご記憶かもしれない。智也は悔しさを笑顔で隠すのだ。そして他者と離れて一人になった時に、一気に表情を暗くする。そんな智也を今日、久しぶりに見た。地元での予選敗退は、しかも勝負駆けに失敗しての脱落は、悔恨のレベルがかなり高いほうだろう。それを智也は他者には悟られまいと、微笑んだ(そんな智也を見た松田祐季は、僕に「智也さん、残ったんですか?」と尋ねてきている)。選手の輪を離れたときにすーっと顔が険しくなったのを見て、智也の地元SGに懸けた思いを改めて知ったように思う。今日の敗戦は最近のなかでは、間違いなく最大級の悔しさだったはずだ。

 

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 もうひとりは11R5着の坪井康晴だ。坪井の場合は、ピット離れで石野貴之に出し抜かれたのが大きかったか。なんとか5コースには入ったものの、松井繁が3カドに引いて、もう一丁遠くなった。スリット後は石野についていく雰囲気はあったが、先に攻められては展開がない。不完全燃焼に終わった一戦だろう。レース後については、淡々とふるまっているようにみえたが、これももしかしたら智也の笑みと同じ意味合いのものかもしれない。こうなると前半の4着も痛く、溜息ばかりが出る4日目となってしまったわけである。

 

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 得点率上位でも、痛恨を味わった者もいる。言うまでもなく、須藤博倫だ。石野貴之との予選トップをめぐる直接対決は、あっさり決着がついてしまった。まくり差した石野の引き波をもろに浴びて後退した瞬間、須藤の予選トップは消えた。しかも6着大敗。1号艇まで手からこぼれ落ちた。その落胆もあったのか、単に大敗を悔やんだのか、須藤は眉間にしわを寄せ、思い切り歯噛みをし、つらそうな表情をしばらく崩すことがなかった。カポック脱ぎ場では、3カドにした松井が須藤に右手をあげて「ごめん」と笑いかけたが、松井もそれ以上の言葉を投げかけるのをやめている。須藤の雰囲気が伝播したというわけではないかもしれないが、その後は誰も口を開かなかった。にぎやかにレースの感想を語り合うというのがカポック脱ぎ場の当たり前の光景なのに、静まり返った空気の中で、それぞれが装備を解いていく。須藤の表情を見てしまっただけに、それは非常に沈痛な光景に見えた。

 

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 最後に、圏外からの逆転に失敗した選手を一人。10Rの池田浩二だ。1着勝負を4着で勝負駆け失敗。エンジン吊りを終えると、脱力したようにフラフラと歩き、顔を歪めて悔しがっていたが、着替えを終えると瓜生正義に「ボート選手やめる!」。西山貴浩にも「ボートの選手やめるわ」と言っている。池田浩二、引退宣言!? もちろんそんなわけはなく、西山に対しては「オートの選手になるわ。試験、受けます!」と敬礼してみせている。ようするに、悔しさをジョークで表現したわけだ。西山が「あんなに強いのに冗談ばっかり言っている」と言う、その象徴的な瞬間です。ともかく、心の底から悔しかったんでしょう。そんな思いがあるから、池田浩二は強いのだし、明日からも最強戦士として奮闘するのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)