BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――曲者台風、到来!

 

 

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 まずは、この悪天候の中、選手の皆さん、お疲れ様でした! そして、雨にも負けず風にも負けず、舟券勝負したファンの方も!

 11R直後がとにかく凄かった。11Rの風速は9mと発表されているが、レース中にはそれでは利かなかったと思う。常滑の電光掲示板には風速が表示されており、レースが終わってピットに戻ってくるころには2ケタになっていた。常滑では、レースを終えるといったんバック側のいちばん奥で待機し、スタート展示がピットアウトした後にボートリフトに向かうという手順となっているのだが、強烈な風雨のなかで待機させるわけにはいかないという判断なのか、スタート展示を少し遅らせて、先に11Rの6人をリフトへと誘導している。

 

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 その間に、風はさらに強くなって、スタート展示は少し遅らせるどころか、完全に待機状態となった。電光掲示板の風速は、15m、17m……20m! 雨脚も強力になってきて、ピットの水面際では屋根があるのに水滴が体を打ちつける。エンジン吊りを終えた篠崎仁志が、水面を見ながら「これ、ダメでしょ! 中止でしょ!」と顔をしかめた。塩田北斗、中嶋健一郎、渡邉優美の105期トリオもやってきて、仁志の隣で苦笑いを浮かべる。よく見ると多くの選手や報道陣が苦笑しながら水面を見つめており、「本当にレースやるの?」といった顔つきになっていた。

 

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 一時的に風が弱まり(といっても追い風7mとか)、ドリーム組が展示開始のスタンバイを始めた瞬間もあった。しかし、再度2ケタの強風がビュンッ! ドリーム組はふたたびボートを降りて、展示待機室に戻っていった。

 結局、風がやや収まった段階で展示を行ない、さらにレース時には追い風5mほどになっているが、いろいろなストレスも選手にはあっただろう。そんななかでも、無事故で1日を終えた選手たちには拍手しかない。明日からは好水面で戦わせたいですね。

 

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 今日、吹き荒れる風と同等の旋風を巻き起こしたのは、曲者軍団だ。2Rの山口達也は前半に記したが、西川昌希は8R、イン逃げ! 4号艇でインを獲っての逃げ切りは、山口と同じ勝ち方である。スタート展示で1号艇の上野真之介は抵抗していたが(それでも西川がイン)、本番では深くなることを嫌ってか、上野はあっさり譲っている。西川の起こしは100mくらいだっただろうか、しっかり先に回って逃げ切った。ピットに戻ったときには、両手を掲げてのガッツポーズも見せている。

「水面一本!」

 西川は何度もそれを繰り返した。強い追い風のなか、たしかに外から握って攻められる水面ではなかった。内が有利であったのは間違いない。だが、中枠なのに有利なポジションを獲ったのは、西川である。水面を味方にできる戦法をとったのだから、やっぱり西川がもぎ取った勝利なのである。

 エンジン吊りにやってきた西山貴浩が嬉しそうに拍手を送る。曲者軍団の面目躍如! 初日からインパクトを与えられたことに満足げであった。

 

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 真打は西山だ。11R1号艇。ここは山口と西川に続いての逃げ切りを決めなければならない……って、磯部誠にまくられちゃった! スリットから伸びた磯部に叩き切られてしまったのだ。しかし、磯部はこの追い風で流れ、西山はしっかりとサイドをかけて残しにいったことで、磯部に追いついた。結果、逃げ切り。なにしろ、今日イチだったと思われる強風でのレースである。ピットに戻った西山は水面がひどかったことを叫びながら、ただただ苦笑いだった。いったんはまくられた展開に対しての苦笑もあったことだろう。ともあれ曲者軍団で今日は3勝。すべてイン逃げだが、いずれも単なるイン逃げではなかった。台風16号は去っても、サスピシャスパーソン台風は常滑に居残り続ける。明日からも嵐を巻き起こせ! あ、サスピシャスパーソンとは、曲者を英訳したものです。西山自身「ピーとかパーとか増えて、余計言いづらくなった」と言ってました。たしかに言いづらいっすね。

 

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 その西山は、レース前には実はものすごく気合の入った顔つきを見せていた。今節の西山も一味違うのだ。その西山に負けないくらいの力強い表情を見せていたのは黒井達矢だ。素顔は穏やかで優しい好青年だが、レース前は闘士の顔だった。

「黒須田さーん、秋元がいなくなっちゃいましたよ~」

 と声をかけられたのは、どの時間帯だったか。黒井と同県同期の秋元哲は、今節出場予定だったが、私傷病で欠場となってしまった。黒井の言葉はそれを指しているのだが、何を隠そう、BOATBoyのヤングダービー特集では秋元のインタビューを掲載しているのだ。欠場が発表された瞬間は腰を抜かしたものだが、それもあって黒井はそんな言葉を投げてきたわけである。

「秋元の分まで頑張りますよ」

 そういって去っていった黒井。その言葉が頭にあっただけに、レース前の黒井の表情は闘志が何倍にも膨れ上がったように思えたのだった。

 

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 そりゃまあ、レース前には気合が入っていて当たり前。誰だって痺れるほど鋭い表情になっているものだが、だからこそ岡崎恭裕のリラックスぶりには驚かされるわけである。岡崎は午後の時間帯、競技棟の1階ロビーにいたかと思えば、装着場でぼんやり水面を眺めていたり、軽くストレッチをするような動きをしていたかと思えば、ふらり整備室に入って行ったりと、実に手持ち無沙汰感満載で過ごしている。これはもう、機力には余裕があるとしか思えない。挙句の果てには、馴染みの記者さんと雑談を始めたりするわけだから、気持ち的にも余裕モードなのである。気合が入っていないということではない。好感触だからこそ、自然体を保てているわけである。事実、優出したオールスターやオーシャンのときにそんな姿が見られている。

 黒井にせよ、岡崎にせよ、今日は結果にはつなげられなかったが、まあ戦闘は始まったばかりだ。それぞれの巻き返しに期待しつつ、明日の様子も楽しみに観察することとしよう。

 最後に小林文彦が帰郷となった。名前を売る機会だっただけに残念。さらに精進を重ねて、来年さらに強くなった姿を見せてほしい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)