BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――難水面に立ち向かう

 

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 1R、4コースから豪快に握っていった山本隆幸が壮絶にキャビった。ピットに悲鳴があがる。次の瞬間、おいおいおいという危険を指摘する声があがった。前本泰和が避けきれずに山本に乗り上げたのだ。リプレイを見ると、間一髪で山本には接触していないように見えるが、山本を轢いてしまったようにも見えたから、ピットは騒然となっている。

 師匠の松井繁が、眉間にしわを寄せながらレスキューの着岸場に走る。兵庫勢も次々と駆け付けていた。レスキューはレース途中でピットに帰還。誰もが嫌な予感を抱かざるをえなかった。

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 ピットにレスキューが到着すると、山本は足を引きずりながらではあったが、自力で歩いて救護室に向かっている。松井が心配そうにヘルメットを持ち、付き添う。兵庫支部勢の表情も一様に険しかった。松井らがピットに戻ってくると、西村拓也のエンジン吊りがあったため装着場で待機した湯川浩司が、松井に「大丈夫ですか?」と尋ねた。松井は「うん、大丈夫そう」と返して、やっと周辺に安堵感が広がっている。その後には山本も、多少痛そうには見えるが、普通の足取りで姿をあらわしており、とにもかくにも一安心だ。

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 2Rでは中島孝平が3周1マークでまさかの転覆。2番手を単独で走っているなか、まったく予期できない転覆で、ピットであがった声といえば、悲鳴よりは「えっ!?」と驚くようなものだった。まさか中島があんな形で転覆するとは思っていなかったのだ。

 中島は特に痛めたところはないようで、やはり自力でレスキューから降りている。ただし、心が相当傷んだようだ。悔しいというのか、情けないというのか、そんな風情の表情で肩を落としており、装着場に姿をあらわしたときには柱を右手でバシッと引っ叩いている。言葉は発していなかったが、吹き出しをつけるとしたら「クソッ」だろう。

 というわけで、1R、2Rでつづけて1マークでの事故が起こってしまった。福岡といえば、1マークのうねり。これが影響していた可能性はあるだろう。そうした条件でも、選手たちは1マークで果敢に握り、あるいはがっちりと差しのハンドルを入れて、抜け出そうと試みる。とにかく事故がこれ以上起こらぬよう祈念しつつ、その奮闘に敬意を表したい。何はともあれ、山本も中島も、大きなけががなくてよかった。

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 さてさて、準優組だが、目立った動きはあまり見られなかった。瓜生正義、池田浩二の1号艇コンビはプロペラ調整をしており、池田はその後、水面に出るための準備を始めていて、このポールポジション組がむしろ早めの始動となっているようだった。瓜生は選手班長なので、2件の事故の際には慌ただしく動き回ってもいた。プロペラ調整を見かけたのは、ほかには原田幸哉、坪井康晴。

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 気合を感じたのは、まずは鎌田義だ。山本の事故の際には険しい顔で動いており、同門の後輩への気遣いが感じられた。その表情は、その後も変わらず。厳しい表情は、山本を心配してのものだけではなさそうだった。こんな鎌田を見たのは、一昨年の尼崎クラシック以来か。地元SGに全身全霊を傾けて臨んだあの時=クラシック準Vと、今回の鎌田にはかなり類似性を感じるのである。

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 魚谷智之の表情も怖いほどに尖っている。昨日のレース後とは一変しているのだ。10年前のダービーも準優6号艇だった、という話を振ったときには、一方的に話を打ち切ろうとするかのように「まったく関係ありません。忘れました」と立ち去ってしまった。まるで気分を害したかにも思えるほど、その口調は素っ気ない。余計なものはいっさい排除して準優に臨む……そうしたメンタルにもっていこうとしているのだろう。

 鎌田も魚谷も、繰り上がるようにして準優に駒を進めたわけだが、それを彼らを軽視する材料にしてはならないだろう。むしろ、不気味に思えるのだが。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)