BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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大村Wチャレカ優勝戦 私的回顧

GP、始動。

 

12R優勝戦

 ①石野貴之(大阪)09

 ②森高一真(香川)13

 ③吉川元浩(兵庫)08

 ④辻 栄蔵(広島)11

 ⑤坪井康晴(静岡)14

 ⑥篠崎仁志(福岡)17

 

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 スリット隊形で、石野が逃げるか吉川が攻めきるか、どちらかに絞られたと思った。吉川が艇幅をしっかりとって直進する。森高が差しの準備としてじりじり石野に近づいたとき、吉川が動いた。昨日と同じ3コースまくり差し。森高に覆いかぶさるようなツケマイを放ち、そのまま石野の内懐に舳先を突っ込む。わずかに入ったが、それはすぐに振りほどかれた。石野のターンはやや落とし気味で、吉川の戦法を完全に先読みしていた。まくりよりも差しを警戒し、吉川が差すべきスペースを殺しきっていた。完璧なターンだ。

 

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 では、吉川が握っていたら届いていたか……記者席に戻って何度もリプレイを観たが、おそらく届かなかっただろう。だとするなら、1マークのインモンキーですでに石野の勝ちは揺るがなかった。それほど完璧なターンだったし、そのターンを実現させたのはコンマ09の理想的なスタートだ。で、インからスタートできたのは昨日の11Rで勝ち、直後の12Rで予選トップの辻が負けたから。それでなぜ1号艇になれたかと言えば、4日目に予選上位の選手たちが次々と点数を落としたから……。こうして、今日のターンから帰納法的に遡ってゆくと、この一連の流れは石野が勝つためだけに動いていたような気になってしまう。もっと言うなら、前検日にエース44号機を引いた時から?? 私は運命論者ではないが、今節は石野の持っている星のようなものを、いつもより強く感じた。もちろん、それらのファクターのすべてに「石野の整備力、精神力、ターンスピード、テクニック」という“スパイス”が必ず注がれているのだが。

 

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 一発勝負に賭けた吉川が転覆したため、レースに関してもう書くべきことはない。チャレカとしての特性を踏まえるなら、石野の優勝によって

①賞金ランク1位(GPトライアル2ndの12R1号艇)の座を自力でもぎ取った。ちなみに2位は菊地で、3位・瓜生との差はわずかに19500円!!

②松井繁の同6位(GPトライアル2ndスタート)が決まった。

③魚谷智之が暫定18位の座を守りきった。ちなみに19位・田中信一郎との差は327500円。

 この3つの事象が発生した。辻や吉川が勝っていたらこの事象は大きく変わっていたわけで、今日の石野はグランプリそのものを演出したとも言えるだろう。

 いま、グランプリははじまった。

 間延びした5艇をぼんやり見ながらそう感じ、石野の手のひらの上でそれが動きはじめたような気がした。

 

27年ターン

 

11R優勝戦 並び順

①遠藤エミ(滋賀) 09

②長嶋万記(静岡) 13

③小野生奈(福岡) 06

⑥日高逸子(福岡) 06

④竹井奈美(福岡) 06

⑤大瀧明日香(愛知)04

 

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 スタートのコンマ09からの豪快なイン逃げ。もちろん石野ほど完璧ではなかったが、ほとんど同じようなレースっぷりで遠藤が快勝した。初のGⅡ制覇というのはやや意外な気もしたが、それを声に大にして賞讃するつもりはない。エミにとってこの勝利は、単なる通過点でなければならない。女子GI、男女混合GⅡ、GI、そして……私がエミに課しているハードルは高い。ボート関係者には、天才レーサー遠藤エミに対して強豪男子レーサーと至る所で戦えるよう、配慮と尽力を期待している。

 

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 このレースを「クイーンズクライマックス」への最終予選と捉えるなら、絶賛すべきは日高逸子だろう。前付けのスロー4コースからコンマ06発進(練習ではなかったコースだし、勘の掴みにくい起こしだったと思う)。3コースから先に攻めた小野をマークして差すのではなく、その上をぶん回した若々しい戦術。この度胸たっぷりのアタックで、とりあえずバック中間でクイクラ圏内の3番手をキープした。

 が、その内から大瀧がするすると舳先を伸ばした。今日の大瀧の足はかなりの仕上がりだった。ノルマの3着を確保するには、この大瀧をターゲットにするのがセオリーだろう。だが、日高の2マークでの選択はまったく違うものだった。大瀧を相手にせず、2番手の小野にモーションを仕掛けたのだ。内に切り込んで、突進気味に直進する。成功すれば2着があるが、空振りなら4着もあるリスキーな戦術だ。どうなることか、と見ていたら、その“奇襲”がものの見事にハマった。完璧な入射角度とスピードで小野が通るべき航跡を先取りし、握るヒマも差すべき空間も与えなかった。一瞬にして体が入れ替わり、日高は「安全圏」の2番手を獲りきっていた。

 

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 3着を目指したら4着もないんだよ、フフフ。

 そんな日高の高笑いが聞こえた気がした。1989年の第2回女子王座を制してから27年間、常に女子のトップ級に君臨し続けたプライドと、毎年のようにSGで歴戦の猛者たちに揉まれ続けた経験則、そんなこんなが凝縮したターンだった。グレートマザーの名は、伊達ではない。

 一方、その日高を進入からブロックし、1マークで遠藤を脅かし、日高に抜かれた後も切り返し気味にアタックして再逆転を狙った小野にもあっぱれを送りたい。ややもすれば生温い選手道や淑女協定?らしきものが垣間見られる女子レースにあって、同県の大先輩への躊躇ないアタックは観ていて清々しかった。進入、スリット、道中……女子選手には、今日のこのレースを理想的なテキストにしてもらいたい。(photos/シギー中尾、text/畠山)