BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@グランプリ――グランプリの特殊性

 

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 11Rの展示が終わり、12R出走選手たちが続々とボートを展示ピットに移す。数分後、予定調和のように、5号艇のピットだけがぽっかりと空いていた。もちろん、辻栄蔵である。

 前半記事に書いた、調整終了の予想時刻は15時40分。その時間にペラ室を覗いたら、シリーズ組が山ほどいて驚かされたわけだが、もちろんそのなかに辻もいる。こちらの予想時刻を過ぎてもペラを叩き続け、立ち上がったのは15時45分。そこで辻は何かを思い出したように動きを止め、ふたたび腰を下ろして調整を再開。結局、調整を終えたのは15時48分。ほんとにギリギリのギリギリまで、いつものパターンを続けたのだ。

 今日の結果は残念なものとなったが、明日も当然、辻はプロペラと向き合う時間を過ごすだろう。これは間違いなく最終日まで続く。それが自らを頂点に導くものと信じて、ひたすら己を貫くのだ。

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 前半の記事では、太田和美に余裕があるように見えると書いたが、これは午後の時間帯になっても変わらなかった。10R発売中くらいのタイミングだったか、緊張感はさらに高まっていく中で、太田は装着場のど真ん中にある小屋にいた。ここは選手の喫煙所または休憩所となっており、2階には勝利者インタビューのブースもある。ここはピット全体を見通せる位置でもあるからか、選手代表の湯川浩司の姿をここでよく見たりする。そのとき、湯川のほかに森高一真、田村隆信がいて、プチ銀河系同窓会の様相を呈していた。そのなかにひとり、太田和美。会話の主導権は森高あたりがとっているのだろう。温暖な日のため開けられていた窓から、何度か爆笑の声が装着場にも響いてきた。見ると、太田も銀河系らとともに笑っている。実にリラックスした笑顔なのだ。

 12Rは3着。トライアル1st組では唯一、舟券に絡んだ選手となった。余裕が結果に直結したとは言わないが、太田の様子を思い出すと、少なくとも太田にとってはポジティブな要因となっていただろう。こういうときの太田はやはり怖い。好枠を引いた明日は、なお怖いと言える。

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 舞台はグランプリなのだから緊張して当然。しかし、少しは余裕があったほうがいいのだろうか。盤石のイン戦と思われた菊地孝平が、まさかの1マーク失敗。2マークの見事なツケマイで2着は確保したが、意外すぎる1マークではあった。

「テンパッてるんじゃねえよ」と原田幸哉にからかわれた菊地は、「なんか手が固まってただけですよ~。それをテンパってるって言うの?」と返して、幸哉にさらに笑われていた。そう、菊地は緊張していたというのだ。「高ぶりすぎて緊張に押し潰された」と振り返る菊地は、起こしのタイミングを失敗していたそうだ。タイミングはかなりつかんでいたのに、なぜか勝手に手が動いて早めに起こしてしまった。あのスタート巧者で艇界きっての頭脳派の菊地に、こんなことが起こるのである。そして、1マークはサイドがかかりすぎて、ターンマークに接触した。サイドがかかりすぎたのは足の部分だが、しかし完全にちぐはぐなスタートから1マークだったのはたしかである。この失敗は明日明後日に活かされるのは間違いないが、トライアル2nd初戦1号艇はすでに経験している菊地ですら、こうした状況に陥るのだから、グランプリの舞台はただごとではない。ちなみに、瓜生正義も高ぶるところがあったそうだ。これぞグランプリの特別性である。

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 坪井康晴の大敗にも驚いた。誰もが認めるエース級の15号機を相棒に、結果はなんと6着である。菊地に出迎えられた坪井は、さすがに表情を硬くしていた。残り3走でまだまだ取り返しが利くとはいえ、足には手応えがあるなかでの大敗は、明日からの戦いに影を落とす。巻き返すために何をなすべきか、ということをすぐに見つけることはなかなか難しいはずだ。

 で、その巻き返しの端緒を、坪井はその直後につかむ。枠番抽選で1号艇を引いたのだ。いや、引いたは正確じゃないか。6着だから、抽選順は最後。つまり、最後まで白球が残っていたのである。坪井は思わず、ぼそりつぶやいた。「よかった……」。明日は揺るぎなく逃げるだけだ!

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 坪井の「よかった……」は、もうひとつワケがある。4人が引き終わって、残ったのが1号艇と6号艇だったのである。つまり、まかり間違えば6号艇が残っていた可能性があった。天は坪井をそこまでは見放していなかったわけだ。

 1号艇か6号艇かの抽選で6を引いてしまったのは池田浩二。2分の1の明暗で、暗のほうをつかんでしまったのだから、天を仰ぎ悲鳴をあげるのは当然だ。その様子はそりゃもう、地獄の淵に立たされてしまったかのよう。枠なりであれば、今日もピット離れで失敗して6コース回りになったので、まさかの2走連続大外発進となってしまうわけだ。お先真っ暗の表情はちょっと痛々しかった。もう一方の抽選も、最後の2つが白と緑で、同じように辻栄蔵が6を引いていた。そして、天を仰いだ。まるでVTRを見ているかのような光景に、思わず周囲は爆笑。まあ、みんな笑っちゃいますよね、池田には悪いけど(笑)。

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 最後に石野貴之。ピストンリング交換で臨んだ初戦は、見事に逃げ切り。足色に関してネガティブなコメントはないが、「やはりスリット付近は坪井さんに半分いかないくらいやられる」「明日は3号艇なので、少しでも伸びるようにしたい」と、実際はやや足りない部分もありそうである。明日も凛々しく雄々しく調整を進めるだろうが、逆にいえば今日は気持ちで逃げた部分もありそうで、メンタルに関しての不安はないと考えていいだろう。明日次第では、このままVロード爆走も充分にありそうに思えるがいかがか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)