シリーズ記事でも書いたように、選手はそれぞれ気候に合わせた調整を行なっており、それはグランプリ組も同様。ボートを水面に下ろしていたのは、序盤レースの段階では石野貴之くらいだったが（今日も早い！）、プロペラ調整室にはグランプリジャンパーも山ほど目に入ってきたし、そもそも石野を最初に見たのもプロペラ室だった。奥のほうでは、松井繁も入念にペラを叩いている。こうした天候の急変は山ほど経験してきたはずだが、状況はその場その場で常に違う。王者であろうとも、今日に合わせての丁寧かつ渾身の調整を緩めることなくやるわけである。もちろん、そもそも王者に緩めるという言葉は存在しないわけだが。
松井の隣では篠崎仁志も調整中。隣にいるからといって一緒に叩いているといった雰囲気はなく、仁志は仁志で集中した表情だ。今日はファンのピット見学が一組入っていて、プロペラ室を団体で覗き込む場面もあったが、仁志はそれを物珍しそうに中から眺めたりもしていたが、それで気が散るようなところはなく、すぐにペラに目を落としている。
いったん調整を切り上げた仁志は、自艇のもとに向かう際に、ペラの翼面に息を吐きかけてこする、という動作を繰り返していた。ペラをぴかぴかにするには、呼気の水分がちょうどいいんですかね。あまり見たことのない動作だが、なんとなくわからんでもなかった。
実は、今朝のグランプリ組の動きを集約してしまえば、ペラ調整と試運転、で済んでしまう。１～２Ｒあたりの時間帯で、プロペラ調整室で姿を見なかったのは誰だろう……と思い出すと、ほんの数名に絞られてしまう。ひとりは菊地孝平で、装着場ですれ違っただけが顔を見た瞬間だったが、モーターからペラは外されていたから、たまたまペラ室で見なかっただけだろう。
もうひとり、池田浩二も見ていないが、１Ｒ発売中にカポックを手に自艇に向かう場面を目撃している。しばしその場での作業をこなし、次に行く先はおそらくプロペラ室。それをたまたま、僕が目にしていないだけのことだろう。
はっきりとペラ室にいなかったのは、太田和美だ。もっとも、姿は何度か見ている。装着場ですれ違ったり、整備室へと入っていくのを見かけたり。細かな作業はいろいろとあるだろう。ただ、その後に向かう先はまず控室で、プロペラ室は素通りである。このあと、さらに控室で過ごすのか、それともペラ調整に向かうのかはわからない。これを書いている今の所在ももちろん。ただ、ノーハンマー太田が脅威の存在となることは、これまでのＳＧで何度も見ていることだ。ペラ室にこもらないことが、太田にとってはポジティブな要素としか思えないのである。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
