BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@シリーズ――痛みのあるセミファイナル

8R 最強の痛み

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「明日は気をつけます」

 田村隆信はそう言っていたはずだった。もちろん、気をつけてもいたはずだ。それが……。

 まさかの勇み足。コンマ01という数字が、ただただ痛い。これで、ほぼ安泰だったはずの鳴門グラチャンが消えた。これはもう、最強の痛みである。田村ももちろん落胆しただろうが、もしかしたら僕のほうが落ち込んでいたかも。田村は僕の様子を見て、ちょっと笑っていた。田村がまたしても地元SGを逃すことが、我が痛みのような気がしていたのだ。

 今年のグラチャンで鳴門オーシャン行きが消えたときも、田村は肩の荷が下りたと言っていたが、今日もそんな思いはあるようだった。「再来年、きっとまた鳴門にSG来ますよ」と田村を慰めてるのか自分を慰めてるのかわからない言葉をかけると、「いやあ、もう考えないようにします。ずっと考えすぎてきましたからね。平常心でしっかり走りますよ」。それもいいかもしれない。地元SGに出るのも目標だろうが、SGを獲る、グランプリを獲ることが本来の目標のはずである。そちらに専心すればいい。僕もそんな気になってきた。そうこうしているうちに、また鳴門にSGが来ることもあるだろう(というか、関係者の皆さん、ぜひまた鳴門にSGを呼んでください!)。SGを獲り、グランプリに出て優出していれば、無条件で出られるのだから、それを目指すべきかもしれない。

 ともあれ、レース後の田村は、もちろん腹の底に思いは渦巻いてはいるだろうが、明るく前を向いていた。来年のメモリアルで再会しましょう。それまではレース中継で田村の面白くてたまらないレースを堪能します。

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 勝者は齊藤仁。Fが出たレースで、さすがにピットに戻ったときの笑顔は控えめだったが、もちろん嬉しくないはずがない。足もいいし、3年ぶりのSG優出だし、気分はいいに決まっているのだ。さあ、こうなったら仁ちゃんを煽りたい。「本当に己を変えるチャンスが来たぞ」と。SGを獲れば、少なくとも肩書が変わる。SGウイナー齊藤仁と。もちろん気持ちも変わるだろう。それが己を変えていく! 明日は結果はどうあれ、渾身の戦いを見たい。齊藤仁を変える戦いを見たい。

 石渡鉄兵が2着で、東京支部ワンツーとなった。セット交換を施して臨んだ一戦、しかしピット離れで遅れて6コースへ。この不安は少しばかりあったようだが、しかしリスクを背負って足の上積みをはかった。悪い予感は当たったが、結果優出である。リスクを恐れなかった鉄兵に、天は味方した。

 ただ、足は正直それほど変化はないそうだ。そこで、明日はもう一発、整備を施してくるのか。明日朝の動きが気になるぞ。会見では「整備士さんに相談する」と言っていたので、何かあるのは間違いなさそうだ。

 

9R 優勝戦を動かす男!?

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 6コース選択は結果正解。寺田祥はスタート展示では赤岩善生の前付けに抵抗していたが、本番では単騎ダッシュとなっている。スリットからぐいっと伸びて、5艇をまとめて呑みこむかにも見える展開。ピットも一瞬ざわめく、スリットから1マークだったのだ。

 会見で気になる言葉を残している。「6号艇なら、一か八かピット離れ仕様にするかも」。これはなかなか難しいところで、たとえば出足仕様とか伸び仕様なら試運転で足色の変化を確認できるが、ピット離れは試すことができないので、本番一発勝負となる(正確には、スタート展示でしか確認できないまま、本番に臨む)。やってはみたものの飛ばない可能性もあるし、寺田曰く「ピット離れだけ、になるかもしれない」ということもある。まさに一か八かのギャンブルなのだ。

 準優が終わって、寺田は本当に6号艇となった。さあ、明日はどうする。とにかく言えるのは、6号艇から勝つことしか考えていないということだ。ピットアウトから目が離せないぞ。

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 予選トップの今垣光太郎が、厳しい進入となっても動じずに逃げ切った。寺田の攻撃にも慌てることなく、しっかり先マイ。寺田を最後まで前に出さなかったから、足もかなりいいはずだ。

 光ちゃんについては、寺田の目論見もふまえて、会見でも言った「油断しないようにします」がすべてだろう。「何度も獲られてるんで」と苦笑いした光ちゃんは、その悔しさを忘れていない。だからもう明日は大丈夫のような気もするが、しかし何があるかわからない光ちゃんの1号艇なので(笑)、まずはそこに注目しよう。枠なり3対3に収まる可能性も充分にあるメンバー構成だが、なんか進入から見逃せない優勝戦だな。

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 このレース、惜しかったのは上平真二。1マークを回ってバックでは2番手を走っている。SG初優出なるかと思われたが、2マークで寺田に並ばれ、捌かれた。あと少しのところで、初優出は手から零れ落ちたわけだ。

 レース後は、さすがに憮然とした顔つきだった。怒りすら感じられた。上平ってこんな表情もするんだ、と改めて気づかされた瞬間だ。わりと淡々としているタイプの上平も、この局面では悔しさを隠そうとしない。こうなったら、次は歓喜を隠せない上平真二を見たいぞ。ここまで来たのだから、その日もそうは遠くないだろう。

 

10R 幸哉に何が……

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 勝った重成一人は実に爽やかであった。ものの見事に決まったまくり差し。大きな笑顔を見せるわけではないけれども、確実に雰囲気が華やいでいる。会心という思いは当然あったはずである。

「シナリオ通りに、思い描いた通りになりましたね。たぶん原田さんがハナ切って、それで差すだろうから、そこで大事に優しくハンドルを切っていく、という」

 勝つイメージを作って、それがものの見事にハマったのだから、それは気持ちいいに決まっている。足は「中の下くらい」と優勢とは言えないだけになお、爽快であろう。明日も同じ3号艇だが、どんなシナリオを思い描いて、レースに臨むだろうか。

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 1号艇を活かせなかった白井英治だが、意外と大きなショックを受けていないようだった。会見でもサバサバと話している。というか、2着に敗れてしまった瞬間に、白井は「1便バスで帰る」に気持ちを切り替えた(笑)。10R終了後の出発だから、それからは大急ぎ。モーターを格納し、会見をこなし、風のように去っていったのである。

 ところが11R発売中、ピットに白井がいるではないか。「乗れなかったよ~。あんなに急いだのに、もう、大ショック」。レース後より悔しそうだった(笑)。明日は4号艇でもあるし、これくらいリラックスして臨めたら、かえって怖い存在だぞ。待望の2冠目がここになってもまったくおかしくなさそうだ。

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 それにしても、原田幸哉の深刻な表情は尋常ではなかった。敗れて苦笑いというパターンも多いだけに、ただただ暗い表情のレース後には少し驚かされたものだ。柳沢一と並んで歩くスピードもかなり遅い。何か期すものがあっての戦いに敗れてしまった、という雰囲気である。着替えたあとには、プロペラ室にこもり、最後まで調整を続けてもいた。思うところがあったとしか思えないのだ。その心境がおおいに気になるところだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)