①松井繁(大阪).14
②平本真之(愛知).16
③今井美亜(福井).16
④小野生奈(福岡).17
⑤峰竜太(佐賀).15
⑥真庭明志(長崎).22
王者の完勝、だった。
インからトップスタート。セミファイナルと同様、今井美亜が握って攻めるが、届く気配はない。4カドの小野生奈はじわじわと出て行く雰囲気はあったものの、突き抜けるまでには至らない。峰竜太が豪快なまくり差しを放ったけれども、これまた届かない。平本真之の2コース差しは手前でややキャビり、脅威にはならない。あとはただ、先に回って突き放すだけ。「負けないレースをする」と言った、その通りのレースで、松井はバトルトーナメント2代目覇者となった。
松井の舟足自体は、それほど威張れるものではなかったと思う。「昨日よりちょっと良かったかな。そんなに悪い足色じゃなかったよ」とレース後に振り返っているが、せいぜい「悪い足色じゃない」であって、突出していたとは思えない。もっとも優出者も似たり寄ったりで、小野の行き足がやや優勢だったが、先述のとおり他を脅かすまでには至っていない。それがインの松井に有利に働いたのもたしかだろうが、かといって松井自身も抜けているわけではないのだから、表彰式で言ったように(MCに言わされた?)「腕で勝ちました」というべき勝利だった。ようするに、強かった!
敗れた選手たちも天晴なレースを見せている。峰竜太は、2年連続準Vとなったが、それを本人は良しとしなかったのだろう、最後まで松井を追撃し、最終的に2艇身差まで詰めている。レース後の様子は、SG優勝戦の敗戦後とは違い、さっぱりしたものだったが、胸の奥に悔しさはちらりとでもあったことは間違いない。で、峰はモーターを格納して帰る際、なぜか僕に向けて親指を立ててにっこり笑っている。美亜ちゃんに今年は先着できたぞ、ってこと? 1周目バックでは今井のほうが1艇身ほど前にいたから、半分くらいリベンジには成功したと言ってもいいかも。もっとも、峰の笑顔は心からのものには見えなかった。あのサムアップは強がりのようなものだろう。
今井も、王者を相手に攻め役となったわけだから、胸を張っていい。結果グランプリ戦士には捌かれて4着だが、2周2マークで平本真之に放ったツケマイは、今井美亜とは何か、を鮮やかに表現していた。セミファイナルでは井口佳典をまくり、ファイナルでは松井繁に立ち向かい、峰竜太や平本真之と競った。時間にすればほんの数分だが、その数分で今井はなかなかできない大きな経験をし、他の女子選手がなかなか得られない糧を得た。連覇できなかったことを悔やむより、そちらを喜びとするべきかもしれない。
平本真之は、今井に対して格上の捌きを見せた。また、1周2マークでの先マイアタックも、意地を見せたと言っていいだろう。ただ、やはり3着は悔しい。レース後はいつも通り、顔を歪めている。グランプリ戦士のワンツースリーという結果にあって、自分が最下位なのだ。それを素直に悔しがることは、絶対に悪いことではない。顔を歪めた数だけ、平本はどんどんと戦士の顔になっていく。
残念ながら、小野生奈と真庭明志は見せ場らしい見せ場を作れなかった。モーター格納を終えて去っていく真庭に、お疲れ様でしたと声をかけると、真庭はなぜか申し訳なさそうな顔になって、二度三度と頭を下げた。いやいやいや、昨日の9R発売中、真庭は確実にスターだった。バトルトーナメントを大いに盛り上げた立役者の一人なのだ。ファイナリストの一人として、胸を張って帰ってもらいたい。小野は笑顔を見せていて、SGや女子GⅠのレース後とは少し違う表情だった。いちばん最後にモーター格納を終えて、人影が少なくなったピットに響く声で「お疲れ様でしたー!」と元気いっぱいに控室へと向かってもいる。小野にとっても、このレースはいい経験になったはず。それは今後チャレンジするSGや混合GⅠに活きてくるはずだ。
最後に。表彰式後、松井が延々とサイン攻めに応えていた。これは間違いなく、レース名にも銘打たれている「ファン感謝」を意識したものだろう。一般戦で選手のモチベーションは微妙なのかもしれないが、そのなかで選手たちは「ファン感謝デー」と胸に刻み、おおいに盛り上げていたと思う。こうしたイベント的レースが1年に1回あるからこそ、だから、まずは来年からも1月恒例のシリーズとして長く続いていってほしい。そして、その思いが日々のレースにも存分に発揮されることを信じている。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)