勝負駆けを成功させた選手の表情は当然、明るい。まあ、安田政彦は勝っても負けても淡々とした風情で、それほど顔色が変わっているようには見えなかったが(内心は安堵感やら高揚感はあると思う)、予選突破は常に第一の目標となるわけだから、ここをクリアできれば気分が悪くなろうはずがない。
ピン勝負で5コースから豪快なまくり差し1着。5Rを勝った茅原悠紀は、これが地元戦ということもあわせて、大きな安堵感を手にしているようだった。もっとも茅原は、たいていの場合、明るく接してくれる男ではあるが、今日の午後に声をかけたときには破顔一笑。ちょっと照れくさそうにもしながら、こちらの祝福に「ありがとうございまっす!」と満足そうに笑った。
12Rを3コースからのまくり差しで制した赤岩善生も、珍しく陸に上がった瞬間に笑顔を見せた。ともに戦った他の5人に気を遣って、1着を獲っても淡々とふるまうのが常だが、服部幸男に笑顔で祝福されればどうしたって満面の笑みが浮かぶ。柳沢一にも声をかけられて、赤岩の笑顔はしばらく消えることはなかった。勝利者インタビューに向かう赤岩に声をかけたら、帰ってくる声が実に明るい。会心の勝利で勝負駆けをクリアできれば、喜び倍増も当然で、気分よく準優勝戦に向かうことになりそうだ。
長嶋万記は5着条件の勝負駆けで4着。着順自体は喜べるものではなかった。それでも、終盤の時間帯に声をかけたら、爽やかにニッコリ。ただの予選突破ではなく、SGでの予選突破なのだから、そのことに関しては満足感も大きいだろう。昨日まではSGジャンパーを着ていなかったが、今日の午後には着用! 万記ちゃん、似合ってますぞ。予選突破も果たして、堂々たるSGレーサーの仲間入りだ!
一方、予選突破はそもそも確定的だった井口佳典は、1号艇で敗れたことで、レース直後には硬い表情になっている。これもまあ、当然だろう。2着条件をクリアした、というならまだしも、予選トップも視野に入る状況での1号艇を活かせなかったのは、むしろ痛恨だ。陸に戻ってエンジン吊りをしているときに、整備室のモニターがリプレイを映し出した。井口は速足で整備室のガラス窓に近づき、モニターに見入っていた。なぜ差されてしまったのか。自分のターンはどうだった? 赤岩はどんなターンで突き抜けた? 確認せずにはいられなかっただろう。ヘルメットもかぶったままモニターを凝視する井口の後ろ姿には悔恨が貼りついていたように見えた。
最終的にボーダー18位となったのは新田雄史。11Rは3着条件の3着で、得点率は6.17となった。6.00では予選落ちとなった今節ではあるが、新田自身は6.17ということで予選を突破できたという実感はあったはずだ。ただ、2着の目はありそうな展開だっただけに、レース直後は首を傾げていた。池田浩二が笑顔で新田の肩をぽんぽんと叩いても、もう一度首を傾げる。勝負駆けももちろん大事だが、まず選手の心を支配するのは、そのレースそのものの結果や内容ということだろう。ともあれ、準優には乗ったのだ。予選では6号艇時に前付けを見せているぞ。明日の作戦はどうあれ、悔いのない戦いを見せてほしい。
予選トップとなったのは桐生順平だ。12Rを迎えた時点での予選1、2位は瓜生正義、松村敏で、この二人が1位濃厚……いや、松村は6号艇なので、瓜生がそのまま逃げ切るのではないかというムードはピットにもあった。1号艇の井口が勝ち、瓜生と松村が大きな着を獲れば井口が1位に、なんて話は出ていたが、桐生が逆転1位というのは想定としては薄かったように思う。桐生自身はどうだったか。12Rのエンジン吊りが終わり、控室へと戻る桐生は、まったく高揚感のようなものが見えなかった。周りも桐生に「1位らしいぞ」的なことを話している様子はなく、ただただ淡々と、桐生は控室へと消えていったのだった。おそらく、その時点で1位であることを知らなかったと思われる。当然その後に聞かされたであろうが、きっと桐生はテンションを上げて準優に向かうことができるだろう。予選トップはこれが初体験ではなく、栄光も挫折も味わっている。だから、この状況に震えることはありえない。得点率トップが7.50、ボーダーが6.17と、狭い範囲にギュッと18人が凝縮されたクラシック戦線、何やら波乱の予感がしないでもないけれども、桐生がトップと聞けば素直に盤石と思えてくるのだが、果たして。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)