BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――桐生の圧勝に思う

 

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 何度も書くが、好メンバーの優勝戦だった。それが如実にあらわれていたのが、各選手のレース前の様子だ。1号艇の桐生順平を含め、浮足立つでもなく、ピリピリし過ぎたりもせず、己の世界に没入しつつ、穏やかに過ごしている選手ばかりだった。もちろん、調整も万全だった。桐生はノーハンマーだったそうだが、それもノーハンマーという調整だ。8R発売中には井口佳典がギアケース調整。その後はペラ室にこもっており、その様子は準備万端を思わせた。

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 最後の最後までプロペラ調整をしていたのは茅原悠紀。といっても、ジタバタしていたわけでもなく、するべき準備をしていたら最後になった、という感じ。11R発売中にペラ室を出て、展示準備にかかる際の顔つきはさすがに緊張感を漂わせていたが、その時間帯であれば、その様子こそが自然体であろう。

 飛び抜けた足の選手がいたわけでもなく、技量に関しては文句のつけようのない6人で、誰もがしっかりと準備をし、そして6人全員がいい精神状態でレースに臨む……僕は石野貴之を本命にしたわけだが、この状況で1号艇の桐生順平が負けるわけがないのであった。

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 今節のピット記事で、桐生とは喫煙所で何度も顔を合わせた旨を記したが、これはノーハンマーで通したという事実と符合する。モーターを信じて、あるいは前節で盟友・深谷知博が仕上げたプロペラを信じて、ひたすら集中することに努めた。あるいは、心を平穏に保つことに努めた、ということにもなるか。ともあれ、桐生はモーターは仕上がっていると判断して、あとは気持ちを完全に仕上げようとしていた、ということだろう。ちなみに、会見で「このあと深谷くんに電話します」と冗談っぽく言って、桐生は微笑んだ。前節でニュージェネの盟友がこのモーターを引いていたことも、桐生には後押しになっていたかもしれない。

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 今節、埼玉支部は桐生一人。大挙参戦している福岡勢や、井口にエールを送る三重勢がボートリフトの真ん前でレースを観戦していたなか、そこにはもちろん埼玉勢はいない。群馬支部も帰ったあとで、関東勢で残っていたのは飯山泰のみ。勝って凱旋する桐生を出迎える者はほぼいないのだった。

 ……と思いきや、桐生がボートリフトに近づいてくるにつれ、多くの選手が万歳で桐生を称えた。そのなかには岡崎恭裕、篠崎元志、篠崎仁志。そう、ニュージェネの仲間たちがいた。埼玉勢はいなくとも、盟友はたくさんピットにいたのである。彼らは瓜生先輩を応援しつつも桐生に熱視線を注いでいた。そして、勝った桐生に心からの祝福を送った。単身参戦などではなかったのである。

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 会見で桐生は「ひとついいですか」と自分から話を向けた。なんでも、同室だった茅原悠紀が持参の豆でコーヒーを毎日淹れてくれて、もし桐生が優勝したら会見で「茅原さんの美味しい豆のおかげで自分はいまここにいます、と言え」と命令したのだという(笑)。優勝戦ではライバルとなった茅原ももちろんニュージェネのメンバー。「一緒にいると楽しいことが多い」とも桐生が言っていたように、この輪の中にいることが桐生にパワーを与えているのは間違いなさそうだ。

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 何より、これだけのスピードスターの集団が切磋琢磨することで、今後ますますニュージェネの勢いは増していくということになるだろう。この優勝で桐生は、篠崎元志と並んでSG2Vに達した。SG1Vの面々、まだ未制覇の面々は桐生に続けと意気込むことだろう。彼らがこれからSG制覇を量産していくのは必定のようにさえ思えるわけだが、そんなふうに先々を見通させる、桐生の優勝である。これまでもニュージェネ旋風は艇界を賑わしてきたが、それをさらに加速させる契機が児島クラシック優勝戦だった、といったら考えすぎだろうか。

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 この若い世代に対して、先輩たちも黙っているはずがない。特に今日桐生の後塵を拝した菊地孝平や瓜生正義、石野貴之ら、それぞれ少しずつ世代が違う強豪たちは、次の機会での雪辱を心に期さなければおかしい。もちろん、さらに上の世代のスーパースターたちも同様だ。ということは、これからのSG戦国絵巻はさらにコク深いものとなっていく! 桐生の圧勝は、ボートレース自体をさらに熱くさせる契機となるものかもしれないのだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)

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 松井繁とレース後に話しながら笑顔を見せていた石野でしたが、首をひねる場面も見られた。残念! 舟券外した私も残念です。