12Rドリーム戦1周2マーク、見たこともないようなシーンがあらわれた。桐生順平にまくられてシンガリに後退した峰竜太が、内に切り返してひとつでも上の着順を狙う。その航跡は気持ちの伝わるものではあったが、しかし少しばかり無茶なものでもあった。2マーク手前で振り込むと、ボートの勢いは止まらずネトロンをオーバー。2マークをターンしていた篠崎元志と池田浩二の目の前にぽちょんと着地したのだ。
篠崎と池田にしてみれば、まるで予想もしていなかった事態である。ありえないところからボートが目前に飛び出してきたのだ。あれを想定して走れ、と言われたら、ボートレーサーが備えるべき事態は星の数より多くなるだろう。まったくの非常事態なのだ。
ところが、篠崎と池田は瞬時にハンドルを右に切り、峰を避け切った(池田は若干の接触が合ったようにも見えるが)。SGレーサーがすごいのは旋回だけではない。咄嗟の事態に反応して、危機を回避する能力も素晴らしいのだ。レース後、リプレイを見ていた他の選手たちが、このシーンでまずは一斉に声をあげ、次いで大拍手している。よく事故を起こさずに済ませたと、その対処を絶賛していたのだ。レーサー仲間から見ても、あれは篠崎と池田のファインプレーだったということである。
篠崎も池田も、特に峰と深く絡むことはなく、苦笑いを見せる程度であった。峰も、出てくるのは苦笑いばかりで、同時にどこか申し訳なさそうな気弱な表情もうかがえた。自分を得票1位に押し上げてくれたファンに、迷惑をかけた篠崎と池田に、詫びたい気持ちはあっただろう。ただし、わりとサバサバもしていて、不良航法をとられなかった(たしかに内から張ったわけでもなければ、内側艇の保護を怠ったわけでもなければ、順位に大きな影響を与えたわけでもない)ことに安堵している様子でもあった。「それだけが救いです」という言葉からは、やはり2マークへの後悔が相当に残っていることもうかがえるわけだが、ひとまず前を向けてはいるようである。峰は、篠崎と池田に詫びるというより、感謝しなければならないだろう。もし二人が回避できずに接触していたら、ケガもしていたかもしれないし、不良航法もしくは妨害失格となっていた可能性もあるのだから。
今節は女子が8人。女子はとにかく、試運転も調整も遅くまで粘りに粘るわけだが、ということもあって終盤のピットでは、ひたすら女子選手の姿ばかりを見る時間帯があったのだった。試運転を遅くまでやったのは、平高奈菜、竹井奈美、小野生奈、中村桃佳ら(それと渡辺浩司)。彼女たちは試運転を終えても陸で走り回っており、先輩の艇旗艇番準備やモーター架台の用意、もちろんペラ調整など、ピットに立っていると常に女子選手の誰かが視界に入ったりした。写真は、平高と中村がペラ調整所にいたのでカメラを向けたら、重成一人も叩いているのに気づいて「香川だらけだ」と撮ったものである。
彼女たちは動きが素早いから、エンジン吊りに駆けつけるのも早い。レース直後のピットは女子選手の姿しかなかったりして、まさに「女だらけのSGオールスター」である。あとは彼女たちが水面で結果を出すことに期待しよう! 今日は竹井奈美と遠藤エミが1着を獲ったが、あとは軒並み大敗(竹井と遠藤も2回乗りで、もう1走は6着)。中村桃佳が1走3着に頑張って、初日の得点率では女子トップである。SGでは調整力で男子に上回られることもあって、基本、序盤に活躍して、しかし中盤から追いつかれて失速気味、というのがSGでの女子の傾向だ。それだけに、序盤でなんとか貯金を作っておきたいところで、明日は女子選手にとって“2日早い勝負駆け”だと思う。彼女たちが激走して叩き出す大穴を、応援の意味も込めて、積極的に狙ってみたいなあという気分だぞ。
もちろん男子選手も調整には熱心で、ペラ調整所や整備室にさまざまな選手の姿があった。赤岩善生を取り上げておこう。赤岩は今日の10Rに、ピストンリング2本、シリンダーケース交換で臨んでいる。しかし6着。レース後の赤岩はすぐに整備室に飛び込み、ふたたび整備に着手していた。赤岩にしてみれば、これは「いつものこと」である。SGでも一般戦でも、やることはかわらない。普段通りにやるべきことをやっているだけ、特筆することではない、ということにもなる。それでも、やはり真骨頂を目の当たりにすると、心が反応するというものだ。整備の名手・赤岩が、この「いつものこと」でどこまでパワーアップをしてくるのか、注目しよう。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)