戦車に竹槍
12R優勝戦
①石野貴之(大阪) 14
②丸岡正典(大阪) 14
③岡崎恭裕(福岡) 14
④篠崎仁志(福岡) 16
⑤赤岩善生(愛知) 15
⑥下條雄太郎(長崎)16
石野がまた勝った。
盤石のイン逃げではなかったが、それでも強い勝ち方と言うしかない。ピットアウトから1マークまで、私の描いた脳内レースとほぼ同じだった。わずかに違った点がふたつ。まず、今節のスタート勘がキレッキレだった岡崎が頭ひとつ抜け出すのでは?と想定していたのだが、さすがにF持ちでのSGファイナル。ぴったり1艇身に収めて、スリット隊形は美しいほどの横一線になった。
もうひとつの“誤算”は、レースに深刻な影響を与える可能性があった。インの石野が明らかにアジャストしており、昨日までのようなスリットから伸び返す勢いがまるでなかったのだ。もたつく石野を尻目に、スリット同体から行き足自慢の丸岡がジリジリ伸びてゆく。1マークの手前で、半艇身は覗いていただろう。今日の最大の焦点はここだ。主導権を握った丸岡は、差しだけでなくジカまくりも可能なポジションを得た。届くかどうかはともかく……事実、丸岡はほんの一瞬だけまくりに行こうとした、と思う。石野の上から被せるような航跡を描いてから、おそらく「無理だ」と判断してスッと舳先を引いた。もしも伸びなりの勢いで石野を叩きに行ったら、今年のグラチャン優勝戦はまったく違った結果になっていただろう。あのふたりの態勢からのジカまくりは、あるいは熾烈な大阪競りだったか。正直、大本命の石野を飛ばして4-236という舟券を握りしめていた私は、“それ”を心の中で念じていたことを白状しておこう。
一瞬の躊躇があった丸岡の舳先は迷い箸のように揺れ、その分だけ差しのスピードが半減した。代わって外から猛然と襲い掛かったのが岡崎だ。ハナからの作戦だったのだろう。その握りマイに迷いはなく、石野を呑み込むほどのスピードに見えた。が、それを見透かしていたかのように、石野は艇をピッタリ併せてツケマイの勢いを殺した。続く三の矢として内から仁志が忍び寄ったが、ふたつの危機を最善のターンで回避した石野はあまりにも遠かった。
見た目には、薄氷の勝利。「もしも丸岡がジカまくりを放っていたら」「もしも岡崎のスタートが昨日までと同じコンマゼロ台だったら」……レース後、舟券が紙くずになった私は虚しいタラレバを脳内で巡らせたが、もちろんそれは無意味な思考でしかない。スリットから危機に陥った石野は敵の動きを把握し、1マークでは丸岡にまくらせにくい航跡(ややターンマークを外しての強めの握りマイ)を選んで諦めさせたのだし、さらに想定通りに握りマイを打ってきた岡崎をそのままの流れで迎撃したのだ(レース後の共同記者会見で、石野自身がその思考と行動の経路をやんわり説明している)。SG優勝戦という舞台で、しかも危機的な状況で、瞬時に脳みそと身体がシンクロして危機を回避したということ自体が「強さ」の証明だろう。そんなこんなもひっくるめて「強い勝ち方だった」と脱帽するしかないし、もっと言うなら初日からしっかりと緩むことなくポイントを重ねて予選トップの座を…………うん、ここからは福岡オールスターと重複するのでやめておこう。
私事だが、3日目あたりに「今節の石野28号は福岡の石野28号ほど盤石じゃない、弱点が見つかるはずだ」と思った瞬間に、心の中にウフフと浮き立つものがあった。さらに「きっと優勝戦の1号艇になるだろうから、思いきり蹴とばして大穴を狙ってやろう」と思ったら、さらに心がムフフフフと沸き立った。この優勝戦が心の底から待ち遠しいものになった。
戦車に竹槍で挑むM的な快感。
とでも言おうか。かつて、植木通彦や瓜生正義などに対して感じたのと同じムフフフ。そして今日、私はできうる限りの資金を「打倒・石野」に投下しながら、やっぱりウキウキムフフフ状態だった。財布が薄っぺらになり、結局は戦車に竹槍だったと痛感している今も、いつものSG優勝戦(=舟券惨敗)にはない高揚感のようなものが体に宿っている。
勝手に仮想敵国→石野信用金庫。
うん、これからしばらく、私は「1号艇の石野のアタマ舟券は買わない」と心に決めた。たとえ住之江グランプリのファイナルであっても、1枚たりとも買いません! 鋼鉄の戦車に竹槍で挑むような愚かな行為とわかりつつ……ムフフフフ♪(TEXT/畠山、PHOTOS/シギー中尾)