BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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芦屋レディチャン優勝戦 私的回顧

庶民派クイーン、降誕。

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12R優勝戦

①小野生奈(福岡)19

②日高逸子(福岡)19

③松本晶恵(群馬)15

④細川裕子(愛知)14

⑤岸 恵子(徳島)07

⑥遠藤エミ(滋賀)11

 

 おめでとう、生奈!

 完璧なイン逃げにはほど遠い、薄氷の勝利ではあった。進入は枠なり3対3。注目していた岸のピット離れは今日は不発、すんなり穏やかな待機行動になった。台風5号の影響で強弱を繰り返していた向かい風も、レース本番では“弱”の方に傾いていた。イン選手にとっては有利な条件のようだが、これが逆に生奈を脅かす。弱くなった風を考慮して、早い段階でアジャストしたのだ。スリットはコンマ19。2コースの日高も舳先を揃え、2艇ともに伸び返していく迫力がない。むしろ、3コースのあっきーが1/3艇身ほど抜け出し、じわり艇を内に寄せてゆく。

 

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 波乱の気配が漂う1マーク、あっきーの舳先が見えたであろう生奈は委細構わずぶん回した。もちろん向かい風での舟の返りを計算に入れてのインモンキーだったが、マイシロが浅い分だけ外に流れる。その外では、あっきーが日高にツケマイ気味のまくり差しを浴びせていた。初動、角度、スピードともに文句なし。日高を引き波にハメつつ、そのまま生奈の内に突き刺さる勢いに見えた。

 

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 が、そこは稀代の女勝負師・グレートマザーだ。呑み込まれる寸前、わずかに残した舳先であっきーの艇に体当たりした。相撲で言うなら「体のない」抵抗ではあったが、引き波にハメられたら一巻の終わり。一縷の望みを託しての身体を張ったブロックだったに違いない。ただ、状況が状況だけに私の目にはこんな風に映ったな。

「生奈ちゃん、私はもうダメそうだから、あんただけでも逃げきって!」(笑)

 ことの真偽はわからないが、結果的にこの日高の捨て身のブロックが生奈の勝利を決定づけたと言っていいだろう。あっきーが外にもたれて失速している間に、流れていた生奈は力強く前方へと動き出し、第31代の女王がほぼ決まった。冬のクイーン~夏の女王を目指したあっきー、実に惜しかった!(はい、今節のお約束でサービスショットを1枚、どーぞ!)

 

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 庶民派の女王。

 笑顔いっぱいのウイニングランを眺めていて、こんな言葉が自然に浮かんだ。レスキューの上の生奈は激しく両手を振りながら、スタンドの観衆の顔をひとりひとり真っすぐに見つめ続けていた。そして、馴染みの顔を発見すると飛び上がって喜ぶ。

 

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「うわ、来てくれたんだ、嬉しい、ありがとーー!!」

 とか普通に話しかけて、またピョンピョン飛び跳ねる。表彰式でも客席を見回して知人を見つけると嬉しそうに手を振り、「ありがとーー!!」と声をかける。人との距離が近く、昭和の長屋の住人(朝ドラの『ひよっこ』?)のようなイメージ。この実に庶民的なムードが、たとえばオールスターでの多数の得票につながっているのだろう。うん、生奈には「女・峰竜太」のポジションを授けよう(笑)。

 

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 そうそう、女王に君臨した今、生奈のアンチエリート的な半生も多くの“庶民”を勇気づけるはずだ。やまと学校時代の勝率は確か3点台で、本人も「いつクビになってもおかくないほどの劣等生」と振り返り、「デビューしてからもずっと下手くそ」だった少女が、吉田弘文師匠の猛特訓に耐えて徐々に実力を付け、ついには女王の座に君臨した。シンデレラストーリーと呼ぶよりは、より庶民的なラプンツェルやアナがお似合いか(笑)。女王になっても笑顔を忘れず、清く正しく美しく、さらに水面では稀代の「まくり姫」として艇界を明るく照らし続けてもらいたい。もちろん、海千山千の勝負師たちが異様に緊迫したオーラを発するSGの舞台であっても。(TEXT/畠山、PHOTOS/シギー中尾)