BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――誰もが猛奮闘した!

 

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 とにかく全員が、調整に走り回る優勝戦だった。比較的ゆったりとしていたのは、岸恵子くらいだろうか。その岸にしても、もちろん17号機を活かすためにしっかりと仕上げにかかっていた。台風が近づいてじめっと暑いピットで、誰もが懸命に走っていた。

 理由としては、安定板が着いたことがあげられる。安定板を装着するとモーターの気配が変わることがある、というのはひとつのセオリーである。よく見られるのは、回転を上げるためにチルトを跳ねるケース。今日も0度や0・5度で走る選手がいたし、優勝戦も3人が0度で走っている。小野生奈もチルト調整に懸命だったようで、8R発売中頃に「間に合わないかと思ったけど、やっと方向性が見えました」と言っていた。

 

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 ただ、今節の、いや、女子戦のピットを見るにつけ、仮に天候が変わらなくても似たようなシーンが見られたのではないか。それだけ女子選手は調整に走り回る。遠藤エミは今日もペラ調整と試運転に励んだ。ギリギリまでペラを叩いた。昨日までとは変わらない遠藤が今日もいた。

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 もっとギリギリまで叩いたのは松本晶恵だ。松本は本当のギリギリで、ボートを展示ピットにつけなければならない制限時間直前まで調整し、お急ぎで走って係留所まで走り、ペラを装着した。これは昨年のクイーンズクライマックス優勝戦でも見られた光景。約7カ月前とまるで変わらない松本がいた。

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 細川裕子もギリギリまで叩いた一人だが、それ以前に、細川は朝から叩き続けて叩き続けて、昨日までとは違う足を引き出そうと奮闘した。細川がボートをやっと着水したのは、7R終了後である。それまで安定板すら着けていたなかったのだ。細川はひたすら叩いた。叩き変えた。そして、だ。結局それでは求めていた足が来なかったため、元に戻したのだ。つまり、試運転のあとにはまた、ペラを叩き続けた。ものすごい執念である。

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 百戦錬磨の日高逸子もまた、自分なりの調整をしっかり続けた。今日という日の過ごし方など、知り尽くしている。力を出し切れる仕上がりを目指して、粛々と調整を続けたのだ。

 そこまでやって勝てなかった、という事実は悔しさを呼び起こすものだろう。しかし、それなりの充実感はきっとあったと思う。負けてしまえば、彼女たちには何も残らないかもしれないが、僕は今日の彼女たちの姿をきっと忘れない。ということは、これを読んでいただいているファンの皆さんも、きっと彼女たちが頑張ったことを覚えてくれると思う。

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 先述したとおり、勝った小野生奈もまた、必死で仕上げた。安定板が着いたことで気配が変わった、いや、落ちたことで、「今日はそれしかやってないですよぉ」と笑ったチルト調整をやり尽くしたのだ。それでもまだ、合い切ってはいなかったようだ。そこで小野は、あとは気持ちの問題と腹を決め、決意をもって優勝戦に臨んだ。調整に徹底的に奮闘したからこそ、腹も据わったのだと僕は思っている。

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 そんな小野を周囲も視界に入れていただろう。声を掛け合った仲間もいたはずだ。だから、水面際でレースを見ていた選手たちは、一様に小野が2マークで後続を放した瞬間、拍手を送っていた。万歳をする選手もいた。そして、喜井つかさは号泣していた。103期の同期生である喜井は、小野を最も長く見続けてきたひとりである。小野はやまと学校(現ボートレーサー養成所)時代、落ちこぼれだった。成績は下から2番目。卒業時に教官のコメントには「多大なる努力が必要」と書かれていた。その時代の小野を知っている喜井は、その「多大なる努力」をする小野をも見てきたことだろう。その小野がレディースチャンピオンの先頭を走る。喜井にとって、巨大な感慨が襲ってきた瞬間だったに違いない。

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 そして小野もまた、レース直後に涙を流した。地上波中継の勝利者インタビューのブースに来たとき、すでに涙は止まっていたが、小野の顔つきはとてつもなく神妙なものだった。僕には涙をこらえる姿にも見えた。話し始めてすぐ、いつもの元気な小野生奈になっていたが、小野自身も、今日やってきた必死の調整が実ったことも含めて、大きな感慨を胸に抱いていたと思う。

 ウイニングランに向かう際には、完全な元気娘になって、笑顔を振りまいていた。小野生奈にはひまわりのような笑顔がやっぱり似合う。もちろん、涙もまた美しい。小野にはぜひとも、SGの舞台で大仕事を成し遂げてほしい。その可能性が充分にあることは、今日の勝利や、オーシャンカップの準優勝戦ですでに見せている。その大仕事のあとの、歓喜の涙と、それを経ての大輪の笑顔が見たい。とにかくおめでとう! 本当に見事な優勝でした!

 

 最後に水神祭! 池上カメラマンの写真でお祝いの儀式をどうぞ! 史上初のトビバコスタイル!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

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