BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――気持ちの強さ

f:id:boatrace-g-report:20180102133045j:plain

f:id:boatrace-g-report:20180102133102j:plain

 優勝戦が始まる直前、109期勢が係留所に集まった。やがて出場選手が待機室を出て、本番ピットに向かう。109期勢は、その10数mほど離れたところで、6名を見つめる。いや、見つめていたのは2人だろう。大上卓人と片橋幸貴。同期生たちにまるで念を送るような、その姿。その視線に気づいていたかどうか、片橋はかなり長い間、敬礼の姿勢を保っていた。

 109期勢はおそらくその場でレースを見ていただろうから、2周1マークで聞こえてきた悲鳴は彼らのものではないはずだ。しかし、たしかに悲鳴は聞こえた。2番手を走っていた片橋がターンマークに接触した瞬間、装着場や整備室でレースを見ていた選手たちが声をあげたのだ。しかも、失速した片橋に後続が次々と巻き込まれる。ただ一人、最内を差していった仲谷颯仁は影響を受けずに2番手にあがったが、椎名豊は落水しており、大事故の様相を呈した。見守っている選手たちがざわつくのも無理はない。

f:id:boatrace-g-report:20180102133114j:plain

f:id:boatrace-g-report:20180102133125j:plain

 そうしたレースだから、その事故に関わったというか間近で見た選手たちは、やはり複雑な表情となっていた。モーター返納作業のかたわら、問題の場面を映し出すモニターを一斉に見つめるような場面もあった。幸運な準Vを手にした仲谷も満足感はうかがえず、3番手に浮上した大上は、同期の事故ということもあってか、表情はカタかった。返納を終えて控室に戻る際には、唇をキュッと噛み締めてもいた。最初に巻き込まれるかたちとなった木下翔太は、磯部誠らと神妙な表情でレースを振り返ったりもしていた。2番手逆転もありうるポジションにいただけに、目の前で片橋が接触したことへの驚きもあっただろうし、またやりきれない思いもあったはずだ。

f:id:boatrace-g-report:20180102133136j:plain

f:id:boatrace-g-report:20180102133151j:plain
 落水した椎名は、どこか痛めた様子も見えずにモーター返納作業に駆けつけている。多くの選手が椎名に気遣いの声をかけ、椎名は大丈夫とうなずいている。ケガがなかったようなのは何よりだ。心配なのは片橋で、担架で医務室に運ばれている。優勝戦のレース後には報道陣に2~6着選手のコメントがプリントで配られるのだが、最初、片橋のコメントは記されていなかった(その後、申し訳ありませんでした、というコメントが届いている)。体も痛かろうが、大舞台で妨害失格となったことで、心もまた痛かろうと思う。イースタンヤングを制してここにやって来た片橋は、今節のラッキーボーイだった。だからこそ、今日の結果に対する落胆は大きいはずだ。片橋には、これに沈むのではなく、近いうちにリベンジの機会を掴み取ってほしい。ヤングダービー出場権を掴み取ったように、また上の舞台に顔を出す日を待っている。

f:id:boatrace-g-report:20180102133228j:plain

 その事故は、中田竜太の後ろで起こったことである。だから、事故レースといえども、中田竜太の優勝の価値は1ミリも揺るがない! 中田竜太、おめでとう。まさに完勝であった。

 8R発売中だろうか、中田と少しだけ話したが、実にリラックスした様子だった。「予選1位じゃなかったし、自然体でいられてますね」。もし予選1位でも、今の中田竜太ならそれほど肩に力は入らなかったのではないか。そんな想像ができる、中田の様子だった。

 それが結果に直結するとは限らないと知りつつ、カタくなったことが理由のミスは起こりようがないし、ならば逃げ切るだろうと確信できた。そして中田はそのとおりに逃げ切った。ただただ強い逃げ切りだったと思う。

f:id:boatrace-g-report:20180102133249j:plain

 地上波放送のインタビューの、中田の第一声は「ホッとしました」。やはりそれなりにプレッシャーはかかっていたのだろう。ただし、それに圧される中田ではなかった。今節、会見のたびに「ネガティブな考えは捨てた」「自分に自信をもって戦いたい」と語っていたことを改めて思い出す。たしかに、足も良かった。技量もこのメンバーのなかでは上位である。同時に、これは気持ちの強さが導いた勝利とも言える。気持ちの強さというより、強くあろうとする決意の強さ、と言うべきか。ともかく、メンタル部分が仕上がったことが、ドリーム1号艇の“本命選手”にその通りの仕事をさせたということになるだろう。

 これで中田は、一気に賞金ランク9位に浮上した。おそらく、グランプリ当確を出して問題ない位置だと思う。中田は未体験の領域での戦いに臨む可能性が高いのだ。そのとき、今日のような気持ちの強さを見せることができるかどうか。それを見るのが本当に楽しみになってきた。来月のダービーにも出場するわけだが、ビッグタイトルを手にした中田がどんな顔を見せてくれるかも楽しみだ。ヤングダービーを快勝した中田竜太のこれからには、楽しみばかりが詰まっている。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)