11R発売中にトライアル2nd初戦の11R組が、12R発売中に12R組が、スタート練習3本とタイム測定を行なっている。これは昨日も同様に行なわれた。いよいよ明日から戦いが始まる6人にとって、明日のレースと同じ時間帯に行なう大事な航走。この3日間の成果をひとまず確認する瞬間となる。
11R組では、タイム測定を終えて井口佳典がまずボートを陸に上げた。その後に行なわれた会見では、感触の良さを口にしている。桐生順平は、その後も数周、水面を走った。最後に旋回の部分を確認したか。会見で「体感が良くて好きな感じ」とコメントしている。
石野貴之は、二人とは違う動きをしている。ボートを係留所につけたのだ。つまり、まだ試運転をやめるつもりはない、ということだ。係留所につけたところで先に会見を済ませ、その後は赤ランプがつくまで水面に出ていた。これでボートを上げるのか……と思いきや、まだ上げなかった。ふたたび係留所につけて、12R発売中を待つ。そして12R発売中、明日の12R組のスタート練習とタイム測定が終わると、ふたたび水面に出るのだった。上位6基のなかで、もっとも引きたくなかったモーターを引いた石野。ただし、キャリアボデーの交換で、足は確実に上向いているという。もちろん、上向くというだけでは満足しない。さらに上を求めて、石野は最後の最後、空が赤みを帯びるまで走り続けた。モーターは超抜とは言えなくとも、タイトルを欲する思いは超抜である。
12R組では、寺田祥がやはり気配を上向かせたようだ。昨日まではまったく旋回にならず、足合わせもできなかったそうだが、今日のペラ調整でそれは解消された。初日と2日目を調整だけにあてられるベスト6のアドバンテージを改めて感じさせられる事象と言える。もし同じ足で1stからのスタートだったが、レースにならずに敗退という可能性も考えられるのだ。もし寺田が勝ち抜いていけば、このシステムをもっとも活かした選手ということになるかもしれない。
峰竜太と白井英治は、すでに手応えは問題なしだったが、今日もひとまず納得の仕上がりで終えられたようだ。万全で明日を迎える、ということでもある。峰の会見時、なぜかマイクが不調になって、峰の声がヘリウムガスを吸って手刀でノドを叩くみたいな感じになって(ワレワレハウチュウジンデアル、ってやつ)、会場が爆笑に包まれる瞬間があった。何というか、持ってるなあ、と思った。峰の周囲には陽気さが漂う。このピリピリし始めたグランプリの舞台にあって、この空気を作ってしまうのだから、実に特異なキャラクターなのである。
トライアル1st第2戦はやはり過酷だった。まず、11Rで初出場の中田竜太が終戦となった。5着6着という、なすすべもなかったかのような成績で、初めてのグランプリは終わってしまった。エンジン吊りを終えて、中田はうつろな表情で控室へと戻っていく。視線は右斜め上方に固定されたままで、感情が消えてしまったかのような顔つきだった。呆然とするしかなかっただろう。
昨年は2ndに駒を進めた篠崎仁志もシリーズ回りとなってしまった。落ち込む仁志を、岡崎恭裕と前田将太が挟んで声をかける。そういえば、元志の姿を見なかった。仁志が勝ち進むのを信じて、1便で帰ったか。元志は宿舎でどんな思いで仁志のレースを見ていただろう。明日からは、シリーズ優勝を目指してともに戦う。こうなったら、兄弟優出をこの舞台で実現させてしまえ。
12Rでは、やはり田中信一郎の敗退がせつなかった。エンジン吊りを終えると、田中は昨日と同様に天を仰ぎ、そしてうつむいた。昨日はそのまま控室へと歩を進めたが、今日は途中何度も何度も天を仰ぎ、うつむいた。今日は首をひねってもいた。1号艇を活かせずに黄金のヘルメットへの道は閉ざされた。思い入れが強かった分だけ、この事実は田中の心を痛めつけているだろう。田中がここまで敗戦にまとわりつく感情をあらわにしたのを見た記憶はない。それが、田中の胸に刻まれた思いの大きさをうかがい知らされる。
淡々と戻ってきたように見えた深川真二が、一瞬だけ眉根にシワを寄せたのも印象的だった。どんなレースでも勝ちたい。グランプリとか一般戦とかではなく、すべて勝ちたい。だから、それは単に敗戦に悔しがる姿、なのかもしれない。しかし、このグランプリを盛り上げる存在であることを自覚していたとするなら、2ndへ進めなかったことは痛恨であろう。我々は、ついに深川外枠のグランプリを見ずに今節を終えなければならない。大変残念である。男気のある深川も、きっとそうしたファンの気持ちを理解している。ならばあの表情は……と深読みしてしまうのである。
勝ち残ったのは、まず森高一真だ。初戦6着を、今日の逃げ切りで巻き返してみせた。11Rが終わった時点ではまだ確定ではなかったが、12Rの結果を受けて1st5位での勝ち抜きである。ところがこの男、素直に喜びを表に出さない。12R後に話しかける。「通った」「おっ、12R、獲ったか!」「そうじゃなくて、2ndに残った!」「ああ……そんなことより逃げ切れてよかったわ。昨日6等なのに、ワシからけっこう売れてたからな」「じゃあ、2ndでも白を引いて」「ワシは残り物で充分じゃ」……って、毎日6着ってこと!? レース場入りの際、「2日で終わらんように頑張る」と言ったのだから、少なくとも安堵の思いはあるはずである。そんな素振りすら見せないあたりは、まあ森高らしいと言うしかない。2ndでも自分を買ってくれるファンのため、全力を尽くすはずである。
6位通過は原田幸哉だった。12R直後、そのレースで4人も出た1st敗退者への気遣いか、淡々とした表情に終始している。しかし会見では、2nd行きへの喜びを素直に口にしている。このシステムになってからは2度目の出場だが、前回は1st敗退。その屈辱を知っているだけに、やはり安堵の思いはあるだろうし、歓喜があって当然である。
同じように、1st敗退経験のある松井繁だが、王者の思いはまた違うだろう。2nd進出は誰もがノルマと考えているだろうが、王者のそれはまた重みが違う。今日は3着ならば文句なしに当確で、結果も3着だったということもあって、会見では「狙い通りのレースだったか」と問われて、松井はそれを強く否定している。それ以上は語らなかったが、王者が己に課すもの、あるいはグランプリに臨む思いは、そんなふうに語れるものではないということだろう。
松井と似たような思いを感じたのは、菊地孝平の振る舞いに対してである。足が仕上がっている分、コメントからは自信がうかがえるし、やや視線を下向きにしながら一点を見つめて語る様子は、心中に燃えるものを感じさせた。昨年のグランプリは、2号艇で3着。レース後の菊地は「しょぼい……」と繰り返してうつむいていた。目には光るものもあった。声を詰まらせていたとも思う。1年前の屈辱を菊地が忘れているはずがない。「グランプリ走ったなかで一番の感触」を得て、雪辱の思いはさらに強くなっているだろう。
あと2人は、ニュージェネの旗手とでもいうべき、毒島誠と茅原悠紀。1stから二人そろって好成績で勝ち上がり、というのはやはり茅原が勝った3年前の平和島を思い出させる。あのとき、毒島は2ndでは苦戦を強いられ、優勝戦には駒を進められなかった。1stでの快進撃が2ndに持ち越されるわけではない、ということを身をもって体験したのだ。明日からも緩めることなく、戦うだろう。茅原が目指すのはもちろん3年前の再現。といっても6号艇からの優勝、なんてことにこだわる必要はないのだから、好枠優出を目指して、明日からも全身全霊で日々を過ごすはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)