「あ~っついですね~」
すれ違いざまに、茅原悠紀が呟いた。いや~、本当にあ~っつい! 立っているだけで汗が噴き出る午後イチのピットで、茅原をはじめ選手たちは奮闘している。
朝の特訓の時間帯から取材をしていると、1R展示の直前に空気が変わるのを実感する。それまで試運転や係留所での調整で響き渡っていたエンジン音がぴたっと止んで、静寂さが訪れるのだ。しかし、今日はそうではなかった。ギリギリまで試運転をしている選手や、係留所でエンジンを回している選手がけっこういて、展示乗艇の合図がかかる直前までブルンブルンという音は途切れなかった。選手たちの表情は、暑さなど感じていないかのように集中している。しかしもちろん暑いのは暑いのであって、そんなものを超越した状態になっているのだ。
装着場でも多くの選手の姿を見かけた。無傷の3連勝中の魚谷智之も、動きは早かった。今日は12R1回乗りだが、1R展示前にはすでにボート回りで作業を始めている。プロペラを外して、やがて姿を消したが、今日も緩めることのない調整を進めることだろう。
装着場のど真ん中では、峰竜太と岡崎恭裕が真剣な雰囲気で会話をしていた。昨日の12Rの1着2着。岡崎は峰にまくりを張られた格好だったが、もちろんそんなことで盟友同士の絆にヒビは入らない。やがてそこに新田雄史が合流。これで昨日12Rの1~3着が揃い踏みだ。新田は前付けを敢行したが、深インになった峰もコースを奪われた岡崎も、そんなことは引きずらない。ニュージェネたちの情報交換は蒸し暑くてたまらない装着場で10分ほど続いていた。
ニュージェネ会議が終わって3人が散ったあとには、銀河系会議が始まっていた。井口佳典と田村隆信だ。こちらは時折、井口が笑い声をあげる和気あいあいとしたもので、余裕すら感じさせる雰囲気であった。その後には、井口と山本隆幸バージョンの銀河系会議も見かけた。ニュージェネにしろ銀河系軍団にしろ、こうして切磋琢磨することで、SGのど真ん中を闊歩するまでになったわけだ。同じような時間帯には、原田幸哉と柳沢一の師弟会議も見かけていて、こうした絆が選手を強くするということを改めて実感する。
1R、西山貴浩が逃げ切った。エンターテイナー西山だから、勝って帰還するピットはお祭り騒ぎになると思われるかもしれないが、そうではない。足的に不満があるから、ということもあるだろうが、そうでなくても勝負師らしい顔を見せるのが西山である。対戦相手への挨拶も、ちょっと声が大きい以外は、他の選手のそれと変わらない。予選道中のイン逃げで浮かれることはないのである。まあ、6Rも勝って3日目連勝ともなれば、ちょっとは騒ぐかもしれないけど(笑)。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)