BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――暗くなってから

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「山が好き。酒が好き。」
 僕もお酒は大好きですが、山は特にどうでもいいです。あ、それこそどうでもいいですか、そうですか。着ているのは菊地孝平。その菊地は暗くなっても試運転を続けていた。

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 装着場は閑散とし、整備室はモーター格納をしている選手がちらほら。ペラ調整室はそれなりに人口密度は高いけれども、全体の空気はなんとも静謐。というのが終盤の時間帯で、10R終了後には帰宿1便が出発しているので11R発売中はピットにいても手持無沙汰、という感じだった。しかし、10R発売中はちょいと違った。
 まず、菊地が試運転を切り上げて水面から戻ってきた。それを察知した桐生順平、毒島誠、新田雄史というニュージェネ軍団がリフトの周りに集結。エンジン吊りを始めている。まあこれは、ありがちな光景ではある。
 菊地がふと、視界に動くものを感じたか、そちらに目をやった。そして親しげに話しかける。その相手は坪井康晴。坪井がモーターをボートに装着し、カポックを着込んでいたのだ。

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 その少し前、坪井は本体整備をしていた。昨日はセット交換にキャリアボデー交換、今日はクランクシャフト交換。大きな整備が続く坪井は、なおもその手を止めていなかった。足色が苦しいんだろうなあ、とか、この飽くことなき整備の姿勢こそトップレーサーだよなあ、とか、いろんなことを思いながら、その姿をぼんやり見ていたわけである。まさか、まだ走るつもりとは思わなかった!
 そう、坪井は盟友・菊地と入れ違いのように、試運転へと向かったのだ。この時間から!? この時間まで試運転、は珍しくないが、この時間から試運転、はなかなか見かけない。坪井の「何としても!」の思いの発露と言えるだろう。もっとも坪井は、菊地に応えてニコニコとリフトに乗り込んだのだったが。

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 試運転後も坪井は忙しかった。1便で帰ることになっていたようなのだ。10R発売中に試運転を始め、緑ランプがついている間は乗り続け、陸に戻って大急ぎで格納など片付けをし、そうこうしている間に10Rは終わり、エンジン吊りにも参加し、さらに片づけをし……坪井康晴、走りっ放し! なんとか集合には間に合って、1便組の最後列について宿舎へと向かったのだった。ゆっくり休んでくださいね!

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 おっと、坪井が最後列かと思ったら、後方から一人、ぶっ飛んできたぞ。峰竜太だ。10Rを走り、急ぎ着替えや片づけを終えて、ギリギリ1便に加わったようだ。管理係の方をしたがえて、ニコニコしながら帰宿の列に加わった。……と思ったら、軌道を変えて整備室へ。弟子の山田康二に一声かけてから帰るようだ。管理さんがそれを待つ。竜ちゃん、あんまり待たせちゃダメですよ! てなわけで、笑顔を絶やすことなく、ふたたび坪井の後ろについて歩き去ったのであった。お疲れ様!

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 というわけで、1便組の帰宿の模様をもう一丁。やはりベテランが1便には多く、若手は最後まで残るという傾向があるようだ。食事は、最終便(2便)の帰りを待って、全員でとることになります。なお、宿舎ではお酒は飲めません! 菊地選手、酒が好き、は最終日まで我慢なのです。

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 さてさて、静かな終盤のピット。そういや、ペラを叩く金属音もあまり聞こえてはこない。もちろん小さくは聞こえてくるのだが……と、それを上回る音量で、ペラ室から笑い声が聞こえてきた。覗き込むと、笑いの中心にいたのは倉谷和信と瓜生正義。隣り合って叩いていた二人が、何か軽口を飛ばし合ったのだろう。それが耳に入っていた他の選手――篠崎仁志や桐生順平、星栄爾などなど――が爆笑した、ということらしい。それにしても、倉谷と瓜生とは、なかなか珍しい取り合わせ。まあ瓜生がSGに来始めの頃は、しょっちゅう顔を合わせていたことだろう。瓜生もそろそろベテランの域に入ってくる頃になって、倉谷は55歳でなおダービーにやって来た。凄い。支部的にもつながりらしいつながりはないけれども、戦友のような感情もあるのかもしれないですね。その二人を見て若手が笑っているというのも、いい光景だ。

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 おまけ。福岡支部で最も若い小野生奈は、先輩たちの翌日の艇旗艇番準備に奔走。福岡支部は参加選手の数も多いから、なかなか大変だ。ということで、先輩たちの1走めの枠番を腕にメモ……って、こういうときって手のひらに書くのが普通じゃないんですかね? 若い女の子はここにするのが普通なの? オッサンにはわからん。ともあれ、その仕草がなかなかかわいらしかったです。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)