BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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w優勝戦 極私的回顧

飛躍の一歩

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11Rシリーズ優勝戦

①若狭奈美子(岡山)14
②谷川里江(愛知) 18
③高橋淳美(大阪) 19
④塩崎桐加(三重) 14
⑤関野 文(大阪) 19
⑥岩崎芳美(徳島) 23

 塩崎桐加が鮮やかすぎる4カドまくりで混戦シリーズの頂点に立った。レースの格付けはGⅢ、レベル的にも「銘柄級が不在のオールレディース」といった感じのシリーズ戦ではあるが、節間売上は約120億円、このシリーズ優勝戦だけで6億円弱!!という大舞台での優勝は価値がある。名前が「キリカ」ではなく「ヒサカ」だと初めて認識した舟券オヤジもさぞや多かったことだろう(笑)。

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 桐加の度胸とターンセンスが際立つ1マークだった。スリットから覗いたアドバンテージはほんのわずか。あの程度の「覗き」なら直進して差しに回る4カド選手も多いのだが、塩崎は迷うことなく舳先を左に傾けた。そして、カド受け・高橋の舳先には接触したものの、その先はハコまくりのような形で内2艇を軽々と飛び越え、ターンの出口では舟がしっかりと返って一気に一人旅に持ち込んだ。もちろん68号機のパワーも加担したはずだが、初動、角度、レバー操作ともに完璧だったからこその「絞めハコまくり」だった。

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 やまと学校の時代から成績優秀で、当時の教官が「いずれは女子王座(レディースチャンピオン)を獲れる逸材」と話してくれたのを聞いた記憶がある。デビュー9年、産休などもあってそれなりに時間がかかったが、今節の強いレースっぷりは同時開催のもう1ランク上の舞台でも対等に戦えそうなオーラを醸し出していた。産休から復帰していきなり優勝し、さらに全国ファンが群がる大一番でも優勝した事実は、もちろんフロックであるはずもない。今日はちょっと他に書きたいことがあり、ちょいと短い文章で申し訳ないが、こんな一行で締めくくりたい。
 この舞台で、あれこれ祝辞を並べるレベルの女じゃないっすよ!!

ちょっぴり悔しい?2度目のV

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12Rクライマックス優勝戦

①松本晶恵(群馬) 10
②山川美由紀(香川)11
③遠藤エミ(滋賀) 11
④日高逸子(福岡) 13
⑤守屋美穂(岡山) 11
⑥寺田千恵(岡山) 12

 松本晶恵56号機が遠藤エミの猛攻を紙一重で抑えきり、2年ぶり2度目の栄冠に輝いた。おめでとう、アッキー!!
 平和島の水神も、賞金TOP12で唯一の関東レーサーを応援していたのだろう。トライアル第1戦から今日の昼過ぎまで吹き荒れていたホーム向かい風が、9レース頃から徐々に収まりはじめた。最後の大一番はほぼ無風。この時期の平和島ではありえないほどのベタ凪水面になった。
 こうなれば、どの選手もスタートが見えやすい。スリットラインは美しいまでの横一線。さすがの集中力と言うべきだが、これほど見事に一直線に並べば内寄りの選手が断然有利になる。松本の相棒56号機のパワーも加味すれば、それはイン必勝形のスリットラインだった。

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 だがしかし、1マークのかなり手前から凄まじいスピードで松本に襲い掛かった選手がいた。3コースの遠藤エミ! その初動の早さといいハンドルを切る角度といいそこから伸びていくスピードといい、教科書に載せたいほど完璧な「強ツケマイ」だった。並みのパワー、並みのレーサーならば、斬られたと気づく間もなく引き波にハマッていただろう。やはり遠藤エミ、恐るべし!

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 去年の大村に続く連覇を狙うエミと、2年ぶりの平和島クイクラ連覇を目指す晶恵と。斬るか斬られるかの一瞬の攻防で、わずかに交わしきったのは晶恵だった。モーター抽選も含めたここ一番の強運、ファイナル1号艇に辿り着くまでの足跡、レース本番の水面環境……終わってみれば、すべての流れが松本晶恵のためにあったとしか言いようがない。年間を通じて艇界を牛耳った上州軍団の勢いは、しっかりと大晦日まで息づいていた。10月から急成長した京都・近江の勢いは、わずかに上州勢に届かなかった。

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               ★
 さてさて、やや辛口の言葉になるのだが、今節を通じて感じたことを記したい。まずは120億円というとてつもない売上に対して、選手に与えられる賞金が低すぎるのではないか。特に、優勝賞金100万円を筆頭とするシリーズ戦の賞金だ。これは安い。私は単に「選手たちが可哀想すぎる」とか「主催者側が不当に儲け過ぎる」とか言いたいのではない。年の瀬のあれこれ大変な時期に、多くの人々が様々な思いを込めて賭けた120億円に対して、すべての選手たちがその思いに見合うだけの真剣勝負をしてくれるのか、という疑問を抱いたのだ。
 1億円と選手のプライドを懸けたグランプリ、SGのタイトルが付くGPシリーズ戦に参戦するレーサーたちは、「ファンのために」という思いがあろうがなかろうが、ほぼ間違いなく真剣勝負をしてくれる。舟券を買う側も、だからこそ大切なカネをそれぞれの選手を信じて買うことができる。
 で、その直後に行われるクイクラシリーズ戦の選手のモチベーションは、果たしてGPシリーズと同じレベルと言いきれるか。私の答えは「否」だ。「これだけ売上があるのに、なんでこんなに私たちの賞金が安いのか」と思う選手がいても当然だし、事実、そんな愚痴をこぼす選手も多いと聞く。気持ちはわかるし、そんな半端な思いが水面にやや無気力な形で投影されることもあるだろう。買う側はそんな選手たちのメンタル面まで分からずに買うわけで、それは120億円に込められた人々の思いとかなりギャップがあるように思えてならないのだ。選手たちのモチベーションをもっとも効果的にアップさせる手段は、やはり賞金だろう。GⅢだから100万円、などという概念は斬り捨てて、シリーズ戦の優勝賞金はせめても300万円くらいにすべきだと私は思う。もちろん予選や一般レースの着賞金もアップさせれば、選手たちのモチベーションもそれに比例して均等になってゆくだろう。トータル120億円もの大金を張った全国の人々の真剣勝負(もちろんこの中にはお気楽に買っている人もいるだろうが、年を越せるかどうかの勝負をしている人々も、通常のGⅢより何十倍も多いはずだ)に対して、主催する側も選手たちも真剣勝負で応える年末最後の大一番であってほしい。

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 一方賞金トップ12人のクライマックスは、女子戦でもっとも高額な1200万円かつ「女子ナンバーワン」の名誉が懸かっているため、常に揺るぎない真剣勝負だとは思う。が、今年の優勝者が小野生奈の賞金を超えられなかった、というのは売上金額を考えるとやはり寂しい。GPの賞金だけが破格なように、この女子の最高峰レースを3000万円くらいにしてもバチは当たらないと思うのだが、どうだろうか。(PHOTOS/シギー中尾、TEXT/畠山)