女子選手の層が厚い岡山支部にとって、待ちに待った児島での女子ビッグ。その終幕は、このうえないハッピーエンド! 田口節子にとっては、自分が勝ちたかったレースに違いない。だが、地元ワンツーフィニッシュは、やはり喜ぶべき結末ではある。だから田口は、ピットに戻り後輩に出迎えられると笑顔を見せている。モーター返納の間も明るかった。児島レディースオールスターを、寺田先輩とともに最高に盛り上げられた。それはレースの結果というより、地元ツートップの責任感を果たしたことへの喜びだったかもしれない。
そう、優勝は児島のレディースボス・寺田千恵! そして若頭的存在の田口が2着。寺田は記者会見で勝利を確信した瞬間を問われ、「2マークで『後ろが節子ならいいなあ』と思った、そのあたりですね」と答えているが、やはり田口とのワンツーは最も望むべきものだった。しかも、自分が優勝したのだ! Vゴールを決めてピットに凱旋したときにもひらすらスマイルテラッチだったし、表彰式、記者会見を通して、明るい笑みを振りまいていた。
「勝ちたい、獲りたい、そう思って本当に獲れたのは初めて」
65回の優勝、うち2つのGⅠ優勝、1つのGⅡ優勝をこれまでに重ねてきた寺田だが、そうした思いを抱いて優勝まで駆け上ったのは66回目の今回が初めて、だという。つまり、それほどまでに児島レディースオールスターというのは、思い入れがマックスに高まった大会だった。出走表の「出身」の欄には「福岡」とある通り、デビューからこの水面で育ったというわけではないテラッチも、今では根っからの児島レディーなのだ。このシリーズは真に特別な大会であり、支部7人を率いる存在としてどうしても勝ちたい大会だった。それが地元ワンツーという最高の結果で締めくくれたのだから、寺田千恵にとって最も重要な優勝と言っていいだろう。
昨年の「平成30年7月豪雨」で大きな被害を受けた真備町の近隣に住むテラッチ。彼女の街でも被害はあり、テラッチも他人事ではなかった。昨年のクイーンズクライマックスで「今年はいろいろあった」と語っていたが、それはもちろんこの災害のことを指している。いまだ復興は途上といういま、寺田千恵の児島でのビッグVはきっと被災地に勇気を与えるものとなる。そのことも寺田には嬉しいことだろう。明日は3月11日、寺田千恵のこの健闘が岡山の被災地はもちろん、全国の被災者の皆さんにも届きますように!
敗者も一通り。遠藤エミは文字通りの“ギリペラ”調整で、最後の最後までとことんプロペラと向き合った。それも実らなかったが、最後の最後で3着に浮上したのはさすがである。予選1位でありながら準優で敗れたこと、また昨年の悪夢、その両者をすべて払拭するべく懸命に戦ったのは間違いない。
その遠藤に逆転された日高逸子は、モーター返納の時には淡々として見えたが、ピットに戻って直後、ヘルメットの奥で眉間にしわが寄っているのをたしかに見た。それはまるで自分に対して憤っているようにも思えた。やっぱりグレートマザーは勝負師だ。
やはり舟券絡みの目はありながらも大敗となった塩崎桐加からは、悔恨というよりも疲労感が漂っているように感じられた。強力すぎる先輩たちに混じって、見事な戦いだったと思う。また、昨年のクイーンズクライマックスシリーズに続いて、さらに塩崎桐加の名前をアピールできた一節でもあっただろう。その進撃がどこまで続き、どの高みまで登っていくことになるのか、楽しみに注目したい。
最後に、渾身のツケマイを放ったものの、寺田に受け止められてしまった中谷朋子。レース後はほぼ一貫して、神妙な表情だった。敗戦を一人で噛み締めている、という姿だ。モーター返納を先に終えた選手が「ありがとうございました」とあいさつに来ても、軽快に受け答えしながら、しかし笑みが浮かぶことはなかった。勝負師の顔だった。期間女子勝率トップやダービー出場など女子第一人者でありながら、なぜか女子ビッグとは無縁だった中谷だが、その不思議な相性の悪さはこの優出と強烈なまくりで払拭されたものと信じたい。次こそは、爽やかな朋ちゃんスマイルを、優勝戦の後に見たい!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)