12Rが終わり、最終レースを戦った6人がピットへと帰還する。逃げ切った太田和美が淡々とした表情で、大阪勢の出迎えを受けた。粛々とエンジン吊りは進み、太田が「ありがとうございました」と仲間に声をかけたとき、田中信一郎が親指を立てて太田を祝福した。太田はひとつうなずいて控室へ。同県同期、長らくしのぎを削ってきた戦友、盟友。この瞬間、多くの言葉は二人に必要ない。
2着の服部幸男は、エンジン吊りを終えると対岸のビジョンが最も見やすい位置に動いた。目を細めて、終わったばかりのレースを顧みている。そこに3着の明石正之が歩み寄って「ありがとうございました」。服部はそのときは明石に振り返って「どーもっ!」と左手をあげて応えた。そして、明石と並んでふたたびビジョンに目を向けている。
その間にも、仲間たちは今日最後の仕事とばかりに動いている。艇番艇旗を所定の場所に戻す者、アカクミを脱水機に持っていく者、モーターを整備室に運搬する者、などなど、着替えに向かう出走メンバー以外の選手たちがようするに片づけを担っている。これはまあ、12R終了後でなくともレース後には見られる光景だ。
やがて、作業を得た選手たちが次々と控室に向かう。選手はピットと宿舎の行き来の際には“通勤着”というお揃いのウェアを着用することになっているが、よく見ると、すでに通勤着に着替えてエンジン吊りをしていた選手も多かった。しんがりであらわれたのは佐々木康幸、一宮稔弘ら比較的若手の選手たち。整備室内の後片付けも行なったのだろう。選手が全員、控室に姿を消すと、整備室のドアが閉められる。一日が終わった、というところだ。
選手たちはそれぞれに帰り支度を始める。装着場の真ん中あたりにあるプロペラ調整室の前に集合し、整列して宿舎へと向かうのだが、集合の合図がかかる前に、市川哲也と白水勝也が誰よりも早くその場に向かった。市川は選手班長、真っ先に集合場所にやってきてみんなを待つ、ということか。市川はペラ室を背にし、白水はその市川と対面するように立った。学校などで整列するときの先生側が市川、生徒側が白水(と他の選手たち)というわけだ。
やがて、三々五々、選手たちは整列場所へと向かっていく。もちろん集合の合図がかかってから向かえばいいのだが、集合場所には選手の姿がどんどんと揃っていっていた。喫煙所を見ると、仕事終わりの一服をつけながら集合を待つ選手も。野添貴裕の顔が見えた。今日はまくり一撃で快勝。タバコも美味いだろうなあ。
選手食堂で集合を待つ選手も。開いたドアから、王者の笑顔が! 田中信一郎らと談笑しているようだ。松井と田中が食堂を出たとき、12Rを戦った江口晃生が着替えを終えてあらわれた。田中が「お疲れ様でした!」とニッコリ。江口は苦笑を返す。江口は1マークでキャビり、結局6着。後輩たちのねぎらいにも苦笑しか浮かばない、といった感じだった。王者も田中も気持ちは理解できるだろう、柔らかい笑みで江口を見つめていた。
報道陣も12R組のコメントをとろうとその場に残っていたが、選手たちが整列場所に揃うと、それぞれの仕事に戻っていく。JLCのピット解説ブースも片付けられ、整備士さんや検査員さんなど関係者も帰路につく。そして、「選手集合」のアナウンスが流れ(ほとんどの選手がすでに集合していたが)、最後の挨拶をして、いざ宿舎へ。たぶん、一日でいちばん、ピットに落ち着いた空気が流れている瞬間であろう。
本日もお疲れ様でした!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)