BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――激しい水面、穏やかな陸

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 なかなか激しい一日となった。前半でお伝えした海野ゆかりのほかにも、江口晃生、野長瀬正孝が途中帰郷。接触による不完走失格もあったし、まくり競りもあったし、ベテランたちの意地がぶつかり合う水面であった。

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 12Rは川北浩貴が外からの煽りを受けてモーターが不調に。なんとかゴールを目指して3周2マークも回ったが、ギリギリでタイムオーバーとなってしまった。こうした事態は選手にとっては他人事ではないだけに、ピットにいた選手全員が川北の様子を心配そうに見つめていた。川北が3周2マークを回るころにはボートリフトにも選手たちがすでに集まっていたが、視線のほとんどは川北に向けられている。川北は体自体は無事で何よりだったが、不完全燃焼の一戦となってしまったのは残念だ。

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 その12Rは、松井繁が逃げ切った。といっても、レースを見た方ならすんなりの逃げ切りではなかったのはご存じだろう。というか、いったんはまくられているのだ。5コースからまくりに行った鳥飼眞に合わせるかのように2コースから三角哲男がまくった。松井がスリットでやや後手を踏んでいただけに、万事休すの隊形に見えたのだが、三角と鳥飼が競るような格好になり、くるりと回ってみたら松井が逃げていたのだ。ピットに戻ってきた松井の目はヘルメットの奥で笑っていたが、苦笑いも混じっていた!? 盟友・服部幸男も松井に笑いかけ、肩を並べて控室に戻っていっている。これも激しい展開が作ったワンシーンだ。

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 11Rでは、1号艇の濱野谷憲吾が勝った。といっても、逃げ切りではない。3コースまくりなのだ。ピット離れでインを奪われて3コースに。そしてコンマ04のスタートを決めて、内をまくってしまった。ピットに戻ってきた濱野谷のヘルメットの奥の目はやはり笑っていた。選手じゃなくても、なんとなく気持ちはわかるだろう。

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 インを獲ったのは2号艇の渡邊伸太郎。エンジン吊りが終わった後、渡邊が笑顔で「ごめーーん!」と濱野谷に歩み寄っている。それを見て、濱野谷もニッコリ笑って「すいません!」。イン獲っちゃってごめんね、まくっちゃってすみません。もちろん二人とも別になーんも悪いことはしていないのだが、コースを獲ったり内をまくったりしたときには頭を下げ合うのがボートレーサーの礼儀である。そうして言葉を交わしたあとは、「あのスタート、早いだろー」と感想戦。渡邊もコンマ05だから早いという感触はあったのだろう。その上を行かれたのだから、そうした感想が漏れるわけだ。
 水面は激しくとも、レースが終わればノーサイドだ。修羅場を山ほどくぐってきたベテランたちは、こうした場面を知り尽くしている。だから、陸の上は水面に反して穏やかだったりするわけなのである。

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 11R発売中にこんな場面もあった。10Rで4着競りとなった仲口博崇と寺田千恵が、整備室で並んでモニターを見つめていた。太田和美もそれに加わり、ニコニコしながら二人に声をかける。仲口も寺田もにこやかだ。やがてレースが終わると、寺田がのけぞった。ん、寺田が競り合いにケリをつけられた瞬間だろうか、と思ってそっとモニターを覗き込むと、そこには3連単20万円を超える配当が映し出されていた。あら? 三人が見ていたのは、常滑の男女W優勝戦10Rで200710円の特大配当が出たレースだったようなのだ。勝ったのが武藤綾子、テラッチにとっては盟友のような存在なので、気になったのでしょうか。ちょっとずっこけました、ワタシ。

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 あと、気になったのは吉田一郎。選手の控室がある棟の1階には自動販売機があって、その前にはベンチがひとつ置かれている。11R発売中、早くも通勤着に着替えた吉田がそこに座っていたのは確認したのだが、12R発売中になるとなぜか自販機の前にしゃがみ込んでいたのだ。そして、実に長いこと、12Rが発走する頃まで吉田はポツンと一人、そこにいた。何をしていたのだろう……。途中、池上哲二さんが「何やってるの?」ってな感じで声をかけていたが、僕はちょっと話しかけられませんでした(笑)。ともあれ、哀愁漂う渋い吉田一郎、ではありました。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)