BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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多摩川グラチャン優勝戦 私的回顧

怒涛のピンラッシュ!

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12R優勝戦

①柳沢 一(愛知)01
②太田和美(大阪)13
③萩原秀人(福井)14
④木下翔太(大阪)21
⑤坪井康晴(静岡)33
⑥徳増秀樹(静岡)17

 予選1位の1号艇・柳沢ピンがコンマ01でスリットを駆け抜け、そのまま1マークを先制して1等賞でゴールを駆け抜けた。おめでとう、ヤナピン!!

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 最大の勝因は、もちろん度胸満点のピンスタートだ。昨日の10Rの大惨事(複数Fで約3億円の返還)がありながら、よくぞここまで踏み込めたものだ。
「入っててよかった、です」
 表彰式で申し訳なさそうにつぶやいたが、本人が行く気にならなければ絶対にこの数字にはならない。温厚そうに見える柳沢の内面の強さ(成長)を感じさせるスタートだった。

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 ただ、実戦はこの突出したスタートだけでは決まらない。百戦錬磨の太田が、2コースから鬼気迫る差しで柳沢の内フトコロに襲い掛かった。ターンの出口ではちょうど1艇身差あたりか。柳沢30号機の最大の弱点はここから先のストレート足で、舳先が完全に突き刺されば太田が5年ぶりのSG覇者になっただろう。

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 この正念場でも、柳沢は強気な勝負手を放つ。太田が伸びきる手前ですぐに絞め込み、舳先を振り払って内へと進路を切り替えたのだ。この決断の早さがピンスタートに続く第2の勝因だったと思う。わずかにバランスを崩した太田を尻目に、柳沢は真っすぐ力強く前進していった。この瞬間に、新たなSGレーサーが誕生したと言っていいだろう。
 レース班としての勝者の記事は、この程度で許していただきたい。このレースは柳沢vs萩原の同期対決、太田vs木下の大阪対決、坪井vs徳増の静岡対決、はたまた柳沢&原田幸哉の師弟の絆など、さまざまな濃いい人間関係が複雑に絡み合っていた。彼らの悲喜こもごもの想いと交流は、黒須田のピットレポートに委ねるとしよう。
      ☆       ☆      ☆

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 さてさて、シリーズを振り返って優勝者以外のMVPをひとり選ぶなら、迷うことなく今垣光太郎を指名したい。今節の成績は543321551で特筆すべき着順ではないのだが、3日目からの“暗躍”ぶりの凄まじかったこと!
 まず3日目12Rは4カドから十八番の絞めまくり。本人は途中でブロックされたが内水域がもつれ、外から連動した新田雄史が一気にその上をぶん回してまくり圧勝した。3連単106倍。
 翌4日目12Rも、3号艇ながらあえて4カドを選択してスリット同体から迷うことなき絞めまくり。1着なら予選トップ確定のイン白井英治を一撃で引き波に沈めてしまった。そう、この猛攻に連動して鮮やかなまくり差しを決めたのが、他ならぬ柳沢だった。この予選最後のレースが今シリーズの関ヶ原だとするなら、“下剋上”の歴史を生み出したのは今垣(ちなみに本人は勝負駆けとは無縁)だったと私は思う。3連単は359倍。
 そして、今日の3Rは人気のインコースからズブズブに差されて5着大敗で3連単は183倍。かと思いきや、6号艇の9Rは枠なり6コースから内5艇を一気に丸呑みして圧勝。3連単は671倍!!

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「本人が良くも悪くも、光ちゃんいるところに大穴あり」は穴党の合言葉だが、今節の今垣がまさに穴舟券の立役者だった。その基本には、「カドになったら、張られてぶっ飛ばされても徹底的にまくる」というレーススタイルがある。これ、つまり今垣光太郎の「平常心」(笑)。アスリート感覚が蔓延しまくる令和のボートレースの中で、今節の今垣は“昭和の競艇”=水上の格闘技を貫いた。それが優勝戦線の行方を左右したのは偶然としても、彼の存在によって外の選手に絶好の展開が生まれ、1マークの6人がダイナミックに交錯し、続々と高配当を生み出したのは偶然ではない。インで潰れ、6コースから大まくりという圧勝というドタバタぶりも、実になんとも昭和っぽかったなぁ(笑)。
 光ちゃんのいるSGは、配当も含めてサプライズの宝石箱。その古風でダイナミックで艶やかで、どこかユーモラスな光ちゃんのレーススタイルは、令和時代にあってむしろメチャクチャ斬新なのかも?
 なんとなく、そんなことを感じ入ったシリーズだった。(photos/シギー中尾、text/畠山)