BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

今垣光太郎、石川県代表が栄冠!

f:id:boatrace-g-report:20190729184749j:plain

 初代甲子園覇者は石川県代表! 今垣光太郎! 深紅の優勝旗は、加賀百万石の地にはためくこととなった。まずはおめでとう!
 それにしても、見事なカドまくりであった。表彰式では「実は伸び型に調整しました」と語っていた今垣、まさに狙いすました一撃だったと言える。4号艇の茅原悠紀がチルトを跳ねて外に出る、向かい風が強めに吹きスロー勢もスタートは難しい。今日になって、チルトを0度にして調整したら、もう一丁、上向いた。準優後は前付けも視野に知れていた今垣だが、さまざまな状況が「4カドまくり」を決意させた。
 レース直前、ちょっとした駆け引きもあった。チルト角度は選手それぞれが用意された用紙に書き込むのだが、今垣はなかなか書こうとしなかった。実は、それは茅原も同様。11R発売中の喫煙所では、関係者とそんな話をしているのを僕も聞いていた。最後は二人同時に競技本部に呼ばれて書かされたわけだが(笑)、「なるべく書かないようにしていた」と今垣は吐露している。それを他の選手たちが気にしていたかどうかは知らないし、展示が終われば全員の目に留まるわけだが、それでもマイナスと思い込んでいる選手がいれば、それについて考えさせられたかもしれない。戦いは何も、水の上だけではない。

f:id:boatrace-g-report:20190729184901j:plain

 とにかく、チルトを0度にして伸びに手応えを得た今垣は、スタート展示を終えてさらに確信を得る。今垣自身はコンマ17だったが、スロー3艇は「タッチに近かった」と今垣(コンマ01~05の間だった)。強めの向かい風でスタートが難しいというなか、自分はコンマ10早く仕掛ければゼロ台中盤、いかいスロー勢はそれ以上は踏み込めない、すなわち全速ならまくれる! まあ、今垣も本番はコンマ14で苦笑いを浮かべてはいたわけだが、たしかにスロー勢はコンマ20を超えることもできなかった。これは、百戦錬磨の名人らしい読みだったと言える。
 すべてが噛み合った4カドまくり! スローの若手たちを一気に叩き切った瞬間、今垣の初代覇者は確約された。まさにド派手なサヨナラホームラン! 中学時代は野球部だった今垣、たった2度の公式戦のバッターボックスはともにピッチャーゴロだったとか。それから約35年、甲子園の舞台でどでかいホームランだ!

f:id:boatrace-g-report:20190729184935j:plain

 野球ではホームランを打った打者をチームメイトが祝福するが、今垣を笑顔で出迎えたのはもちろん中島孝平、今井美亜。ハイタッチは交わしていないが、二人とも嬉しそうだ。そして、峰竜太! 自身は敗れたが、今垣の一撃を峰も称えた。今日は泣いてませんが(笑)。今垣は、ここ数カ月で峰にプロペラの教えを乞うたのだという。それでプロペラの引き出しを増やし、今回もその調整がハマったという。いわば、年下の師匠が、大先輩の弟子を称えたシーン。ゲームセットのあとは互いに握手。これも甲子園らしい光景だろう。

f:id:boatrace-g-report:20190729185008j:plain

f:id:boatrace-g-report:20190729185042j:plain

 それにしても、桐生順平の悔しがり方はタダ事ではなかった。ピットに戻った瞬間から顔をしかめ、時にうなだれ、首をかしげ、天を仰いで、苦すぎる笑みを浮かべる。それはモーター格納作業の間も消えることなく、整備室ではリプレイ流れるモニターを見上げて、また肩を落とした。スタートを行けなかったこと、まくられたこと、舟券にも絡めなかったこと、1号艇の人気に応えることができなかったこと……その悔恨の奥にあるものはいろいろ考えられるが、こんなにも悔しがっている桐生を見たのははっきり言って記憶にない。あと、福島のもう一方の雄である中田竜太も、脱力感がスゴかった。

f:id:boatrace-g-report:20190729185110j:plain

 地元・静岡県の期待を背負った徳増秀樹は準V。今垣マークの策は正解ではあったが、「あんなにちぎられるとは思わなかった」。今垣を使って差すという計算までは正しかったが、足の違いという部分に計算違いがあったわけだ。ともかく、大健闘である。

f:id:boatrace-g-report:20190729185149j:plain

 健闘といえば、茅原悠紀には拍手を! 茅原が最終的に選んだのはチルト3度! 優出インタビューではチルト2・5度宣言について「パフォーマンスだけで終わらせたくない」と語っていたので、思うような伸びが来なければチルトを下げてターン回り重視もあるかと思っていたのだが、さらに跳ねるとは! 実際、「スタート特訓では茅原くんに半分かそれ以上伸びられた」と今垣が振り返ったように、伸びは来ていたのだ。カドから伸びる今垣、それに食らいつく徳増を超えるまでには至らなかった。しかし、その意気や良し、ではないか! 甲子園を盛り上げたいと考え、ただ盛り上げるだけでは意味がないと貪欲に勝利を願い、それが可能なだけの仕上がりをわずか数時間で遂げたこと。間違いなく影のMVPは茅原である。もちろん茅原はそんな意識など微塵もなく、レース後は顔を引きつらせて悔しがっていた。その心意気もまた良し!

f:id:boatrace-g-report:20190729185234j:plain

 最後に、会見でのゴキゲン光ちゃん。レース前、喫煙所で過ごす時間が長かったのでは、と問われた今垣は、こんなふうに答えて報道陣を笑わせた。「スローから行くときは、今村豊さんが喫ってるホープを喫うんです。ダッシュから行くときはラッキーストライク。今日はブツギリ(両切り)のピース」。えっと、そういう質問じゃないんですけど(笑)。続きがある。「三国の仲のいい関係者の方が、僕が優勝戦に乗ったときは『光太郎、これ喫ってけ』ってブツギリのホープをくれるんですよ。クラァ~ッて来るんだけど、それで緊張が紛れる。優勝戦に乗るとゲン担ぎで今でも喫うんです」。やはり質問の趣旨とはちょっとズレてる気がしないでもないが(笑)、それが緊張を紛らす効果がある、ということではありますね。楽しそうに語る、光ちゃんの笑顔。もうすぐ50歳になるけど、キラッキラの笑顔は高校球児のピュアさをたたえていたぞ。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)