BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――1便出発後

 大村の選手宿舎は、ピットに隣接している。かつては車で10分ほどのところにあったが、昨年敷地内に新設された。競技棟の玄関から徒歩5秒ほどで宿舎の玄関に到着する、というくらい近い。全国屈指の至近宿舎と言っていいだろう(最も近いのは、競技棟の上階が宿舎になっているびわこか)。で、こんなに近くても、帰宿の1便2便はあるんですね。10R終了後、1便で帰る選手に集合のアナウンスがかかった。へえ~、と感心した次第なのだった。

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 居残って調整を続ける面々も少なくない。整備室内の調整所にどっかと腰を下ろし、プロペラを見つめる濱野谷憲吾。10R発売中には今村豊が隣に腰かけて、しきりに濱野谷に声をかけていたが、今村は1便で帰った模様。それでも濱野谷はそこを動こうとせず(正確にはエンジン吊りには参加)、プロペラを叩き続けた。

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 まさかのゴンロク並べる井口佳典も粘った。3走で4点しか稼いでいないのだから、予選突破は早くも絶望的。明日は6号艇があったりするから、なお厳しい。しかし、勝負を投げようとはしない。這ってしまっている原因を探し、解消しようと奮闘する。今節、一緒に来るはずだった新田雄史がグラチャン準優Fで出場取り消しとなってしまい、三重支部からは単独参戦。というわけで、11R発売中には緑の艇番と艇旗を手に明日の準備をする様子も見られた。孤軍奮闘で、明日も諦めずに戦う。

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 片岡雅裕は水面に居残った。試運転を遅くまで続けたのだ。2走してともに6着。もう後がない。だから、懸命に立て直しをはかる。遅くまで試運転を続けた、というのは、ただ水面を駆けていたわけではない。ペラを叩き、水面に出て、また陸に戻ってペラを叩き、また水面に出て、の繰り返しなのである。気温はそれほどでもないとはいえ、多湿のため汗だく必至の今夜。大汗をかきながらとことん戦うのだ。なお、同じ時間帯まで馬場貴也も試運転を続けている。

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 あ、そうそう。篠崎仁志が、大急ぎでボートリフトに駆けていく姿を見かけた。何事かと思ったら、片岡が試運転を切り上げ、そのエンジン吊りに駆けつけるところであった。そう、二人は101期の同期生。やはり常に気にかけているということでしょうね。

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 新兵はもちろん1便で帰ることはない。雑用系の仕事もこなさなければならないからだが、もちろんその合間に調整にも時間を費やす。やや閑散としていたピットでぬぼーっと突っ立ってたら、背後から「お疲れ様です!」とかわいらしい声。羽野直也だ。手にはプロペラ。つい先ほどまでペラ室でその背中を見ていたから、調整に一区切りをつけて若手の仕事に取り掛かるというわけだろう。それにしても、ここ何節かのSGよりも表情が明るい気がするなあ。最近はやや精彩を欠くところがあったが、今節は何らかの手応えを得たかも!?

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 11R、12Rを控えている選手も1便では帰らない。当たり前か。これは10R発売中だが、峰竜太が試運転からあがってきた。8Rで5コースからのまくり差しを放ったが進路がなく後退。それが納得できなかったのだろう、すぐに試運転を走ったわけだ。こちらの姿に気づくと、顔をくしゃくしゃにして8Rを悔しがる。あれは展開がなかったから仕方ないんじゃないの、と問いかけても、「ダメ! 内に行くかあそこに行くか迷ったから」となかなかストイックだ。ようするに、1着を獲れなかったことがダメ、だと言いたいらしい。レース前、5号艇なのに意外と自分アタマが売れているのを見た。ならば応えたい、と思った。でもアタマを獲れなかった。だからダメ、だと。「でも獲り返すから!」と言ってペラ調整に向かい、そして12R、1号艇とはいえきっちりアタマを獲った。泣き虫王子、けっこう骨太なのである。

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 12R1回乗りの石野貴之。もちろん1便では帰らない。だから当たり前だって。午後イチくらいはわりとリラックスして見えていたのだが、レースの時間帯が進むにつれて顔が引き締まっていくのが実に気持ちいい。闘志が宿っていくのを目の当たりにしているようである。田村隆信も同様だ。田村の場合は、表情に力がこもるというふうには見えず、一見淡々としているのだが、しかし明らかに緊張感が漂っていく。今日はここまで長い一日を過ごした。溜め込んだものを爆発させる瞬間を、田村も石野も待っているといった感じ。すでにレースを終えてリラックスしている選手もいるなか、違う雰囲気を醸し出す選手がいる。まあ、終盤のいつもの光景といえばそうなんだけど、なかなか痺れる光景でもあるのである。

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 さてさて、10Rを桑原悠が快勝。これで地元勢全員に白星がついた。クラシックですでに結果を残しているが、地元SGでの初勝利は格別であろう。原田幸哉に出迎えられて、笑顔がはじけた。さらに、報道陣に囲まれて笑みがこぼれまくり。水神祭はもちろんないけれども、忘れられない1勝となったことだろう。で、勝利者インタビューに向かう桑原に、原田が「悠、艇番やっとくから」と翌日の準備を買って出た。桑原はもちろん大恐縮。自分がやりますからと原田を止めるが、「ヒマだから」と原田も聞かなかった。で、原田はまず4号艇の艇番艇旗を自分のボートにつけて……控室のほうへ消えていった。自分のだけかい!(笑)。悠くん、自分のと亮太先輩のやつはお願いします(笑)。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)