BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――過激なトライアル初戦

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 なんとも激しいトライアル1st初戦だった。これこそがトライアル! と興奮する気持ちもありながら、事故多発はやはり後味が悪い。落水した今垣光太郎、太田和美、エンストの茅原悠紀、転覆が妨害失格となってしまった柳沢一はいずれも明日も走れることが何より。ナイターグランプリ、どれだけ寒いことかと覚悟して住之江入りしてみたら、今日は思いのほか暖かかったピット。これもひとつの遠因となって、調整を合わせるのに苦労したという側面も(あるいは合っていなかった)ありそうだ。

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 11Rは今垣が落水となってしまったが、事故があった場所以外もとにかく激戦であった。結果、馬場貴也が不良航法。たった2戦のトライアル1stで食らう減点は、通常の予選での減点よりはるかに重い。明日は今日のような事故がないことを祈るのみだが、そうであれば馬場のシリーズ回りはほぼ確定。馬場はひたすら落胆している。フライングを切ってしまったBBCトーナメントからどうにもリズムが悪いが、残り5日間でなんとか断ち切るきっかけをつかんでほしい。

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 事故レースではあったが、11Rのレース後は明るさもあった。平本真之の6号艇6コースからの勝利だ。なにしろ今日は1Rから10Rまですべて1号艇のイン逃げ決着。それが途切れたと思ったら、6かよ! という高揚感のなかで、殊勲の平本は出迎えられている。平本もリフトの前で待ち構えていた愛弟子の磯部誠にガッツポーズ。磯部も快勝に笑顔を返した。その後も平本は自ら「興奮しています」と言っていたようにハイテンション。これでほぼ2nd行きが当確となり、3年前の初出場時の雪辱をひとつ晴らせそうなことで心が軽くなってもいるだろう。どういうわけか、先頭に立ったあとのレース中に腹痛を起こしたそうだが(こんなことは初めてだそうだ)、平本の気持ちの昂ぶりに体もビックリしたのかもしれないですな。

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 1号艇ながら2着に敗れてしまった井口佳典は、愛弟子の新田雄史の出迎えを受け、満面の笑みで応えていた。それはあまりにそぐわない表情というか、違和感を覚えるもので、井口の様子を訝しく僕は眺めた。
 それはやはり悔し紛れの笑顔だったようだ。新田と別れて一人になった瞬間、井口の肩がガクンと落ちた。記者会見にあらわれると、言葉の端々に苛立ちがうかがえた。「5艇に差されてるんだからダメですね」と、1マークを悔やんでもいる。それでいて2着まで盛り返したのは素晴らしいというほかないが、それは井口には慰めにならない。1stを突破した時、その2着が大きかったと振り返ることはあっても。

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 12Rに関しては、レース後の空気はともかく重苦しかった。1着の田村隆信も、まるで敗者のようにカタい表情で戻ってきている。1号艇の柳沢一が1マークで転覆。これが多重事故にもなり、展開に恵まれた格好での勝利では喜ぶわけにはいかないだろう。

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 2着の池田浩二にしても、表情は険しい。満身創痍の肉体にムチ打っての久々のレースで、消耗も激しかったかもしれない。その様子は5号艇から2着をもぎ取った選手のものとは見えなかった。

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 白井英治は、柳沢の転覆の影響を真っ先に受けている。もちろん柳沢を責める気持ちなど微塵もないだろうが、不本意なレースとなってしまったのは間違いない。控室に戻る歩様は遅く、田村や池田にあっという間に突き放されるほど、とぼとぼとした足取りであった。

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 それにしても、1号艇を活かせなかったどころか、まさかの妨害失格で終戦となってしまった柳沢一の心中はいかばかりか。なにしろいつも淡々としている人なので、穏やかにも見えてしまうのだが、そんなはずがないだろう。それを代弁していたのが師匠の原田幸哉で、真っ青な顔になって狼狽えていた。柳沢が医務室に向かうともちろん駆け付けているわけだが、原田が戻ってきたときに「(柳沢は)大丈夫ですか?」と聞くと、原田は一瞬キョトンとして、そしてこう言った。「体は大丈夫です」。体は大丈夫。でも、大丈夫でないものもある、とも受け取れる言葉である。初めてのグランプリが初戦でいきなりこんなことになってしまった柳沢に、どんな言葉を向ければいいのかは難しい。それでも、このあとの戦いで今年のグランドチャンピオンらしい走りを見たいと願うしかない。

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 さて、レース後にはお楽しみの枠番抽選が行なわれるのだが、事故レース後ということもあって、やはり空気は決して軽くなることなく、盛り上がりも例年より薄くなっている。医務室から遅れてあらわれた太田和美には「大丈夫ですか」の悲壮な声が次々とかけられる。太田は「大丈夫」と軽く受け応えるが、それでも顔つきは険しい。柳沢は入室するや、選手たちに「すみません」と謝罪。全員が首を振って返してはいるが、そうしたやり取り自体が異例と言える。

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 先に抽選をしたB組(2日目12R)は、1番手の田村隆信が黒、2番手の井口佳典が赤、3番手の白井英治が黄、と白は出てこなかったのだが、大きなリアクションは出ない。白を引いたのは5番手の茅原悠紀だったが、1着でも2nd行きはほぼ絶望とあって、やはり喜び爆発とはならなかった。微笑は見えたけれども。

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 A組は、2番手の池田浩二が緑を引いてよろめいてみせたのが、小さな笑いを生んではいる。また、3番手の菊地孝平が白を出し、ピースサインを見せるとカメラマンのフラッシュが一斉に焚かれてもいる。ただ、それにしたって、いつもの菊地なら派手にガッツポーズして沸かせていたに違いなく、やはり事故があったことで遠慮もあるように見受けられた。
 明日の第2戦、レース結果による一喜一憂は当然ある。それでも、今日の類の重さがないレース後を、12人が迎えられますように!

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 トライアル2nd組も少し。今日は11R発売中に3日目11R組(吉川元浩、石野貴之、瓜生正義)、12R発売中に同12R組(毒島誠、峰竜太、桐生順平)がスタート練習をしている。3艇で行なうもので、3本行なったすべてが枠なりだったが、そのうちの1本で瓜生も桐生も3カドを試している。今日はシリーズ特別戦で王者が3カドを見せたが、トライアル2nd初戦でも見られるかも!? まあ、文字通り試したというのが正解な気もするが、外枠に警戒されることなく3カドのスタート勘を試せるのもアドバンテージなのかもしれない。

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 スタート練習後、石野は整備室に飛び込んでいる。やっていたのはキャブレター調整だが、どうも手応えがもうひとつらしい。もっとも、これまでも低調機を引きながらトライアルで目の覚めるようなレースを見せてきたのが石野という男である。今日の感触の悪さで結果を推し量るのはまだ早いだろう。

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 シリーズ戦。10Rのシリーズ特別戦は原田幸哉が1着。2着が桑原悠で、なんか最近どこかで見たような気がする長崎ワンツー。このときの原田は柳沢とともににこやかにレースを振り返り、そこに桑原が「幸哉さーん」と駆け寄ると充実感のある笑顔を交わしている。後付けになってしまうが、原田には愛弟子の分も奮闘してほしい。というか、奮闘するのだ!

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 大山千広は、6着6着。最悪の初日となってしまった。今節もレース後には、瓜生正義のもとに向かい、“授業”を受けている。今日の展開は瓜生も「ムズいね」と口にしたものだったようで、しかし瓜生の見解や助言を大山は熱心に聞いていた。そうしたうえで、最高峰バトルを目の当たりにすることは、大山にとってレーサー人生最大級の経験となるはずだ。いつかその場に辿り着くべく、結果を恐れない真っ向勝負を見せてほしい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)