孤独のガッツポーズ
12R優勝戦
①小野生奈(福岡) 09
②岩崎芳美(徳島) 11
③長嶋万記(静岡) 15
④廣中智紗衣(東京)15
⑤喜多須杏奈(徳島)17
⑥清水沙樹(東京) 28
地元の選手班長・岩崎芳美が、2コースからズッポリ差し抜けた。2002年3月の徳山・女子王座(レディースチャンピオン)以来、18年ぶりの女子ビッグレース戴冠、おめでとう!!
スリットは↑ご覧のとおり、内から順繰り舳先が飛び出す隊形に。ならば実力、スピードともに申し分のないインコースの小野が断然有利としたものだが、スリットからじりじり出て行ったのは岩崎の方だった。今節の岩崎35号機はこの部分の行き足が半端ない。
まくるかも??
そう予感するほどの勢いだったし「覗けば2コースでも握る」が岩崎流なのだが、今日の本人の判断は違った。
「徐々に追い風が強くなる予報だったので、今日は差そうと決めていた」(レース後・談)
そんな腹づもりで迎えた1マーク、名手・小野が珍しくターンマークを大きく外した。もちろん単なるターンミスだったかも知れないが、スリットから出て行く岩崎の圧力、そして「岩崎さんは2コースでも握る」という思いが、まくりに抵抗するような旋回になった気がしてならない。その握りすぎ、外しすぎたターンを、ホーム追い風がさらに咎めた。
ズバッ。
音が聞こえるような差しハンドル。差しと決め、1マークの手前でしっかり落とした岩崎の艇は流れない。ターンの出口から瞬く間に舳先を突き刺し、そこからまた力強いパワーで出て行った。バック直線、外から小野が必死に追いすがったが、岩崎がぐんぐん突き放す。2マーク、1着以外は眼中にない小野(優勝すればオーシャンカップの圏内突入)が捨て身のツケマイを浴びせたが、逆にバランスを逸して地元の喜多須にも追い抜かれた。
一人旅に持ち込んだ岩崎は、観客が誰もいない水面でド派手なガッツポーズを繰り出した、らしい(本人談)。47歳での女子ビッグ制覇。身体が勝手に動いたに違いない。できれば、スタンドに連なる地元ファンの大歓声の中で、それをさせてあげたかった。私もその雑踏の中で拍手を送りたかった。孤独なガッツポーズ。
だがしかし、今節の私はこんなことを思った。
公営ギャンブルの“無観客試合”は、他のスポーツとは少し意味合いが違うのではないか。
と。モニター観戦した人も仕事やプライベートで観れない人も、命の次に大事(とよく言われる)なお金を注ぎ込み、その結果を知って一喜一憂する。常々、選手たちはそんなファンの熱すぎる思いを感じながら走っているはずで、ならば無観客であっても背負うべきモチベーションに大差はないのではないか。いや、他のスポーツ選手もそうなんだけど、ギャンブルという要素がより強く選手とファンの絆を深めているのではないか。たとえ無観客であっても。
誰もいないレース場でのガッツポーズ。その思いは、岩崎の舟券を獲った全国のファンと強く深くシンクロしたことだろう。逆に大きな人気を背負って敗れた小野は、目に見えない全国の叱咤激励を感じながら帰途についたことだろう。本場に駆けつけられなかった地元ファンは本当に可哀そうだと思うのだが、選手たちはそれぞれにファンの存在を近しく感じていた、と思う。
今日の私は、奇跡的に舟券を獲らせてもらい、岩崎の「見えないガッツポーズ」(モニターでも汲み取れなかった)に100%シンクロした幸せ者だった。◎は地元の後輩・喜多須に打ったが、前検から岩崎の行き足に惚れ込み、2日目に「節イチの有力候補」としたあたりから、並々ならぬ親近感を抱いていた(←はい、大自慢ですw)。生のレースが観れなくても。今日も今日とて、ネット残高100円からミリオンには至らなかったものの、相応のプラス収支でシリーズを終えることができた。
人間、何があっても諦めちゃいかんな。
岩崎47歳の優勝と、そんな部分も勝手にシンクロさせていただいた。そんなこんなも含めて、実際のレースは観れなかったが、いろいろなことを感じさせてくれる1週間だった。できれば、こんな緊急事態は二度と起きてほしくはないけれど。(photos/チャーリー池上、text/畠山)